tori


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柳は変な夢を見た。
この学園に来てからだけではなく、生まれた時からの回想なのだろうか。
この世界での小鳥遊柳としての記憶をずっと見ていた。
平凡な両親に育てられ、地味に暮らし、それなりに主張しない日々を送る。
転機が現れたのはこの学園に通ってからだ。
今まで見向きもしなかったのに、急に人集りが出来たり、告白こそされなかったが、自分に好意を寄せてるであろう視線や、性的に上から下まで舐め回すような下衆い視線までも。
そして、最後の記憶である強姦未遂事件から始まる、自殺未遂。
それが何だか他人事には思えず、目頭が熱くなった。
そこでふと意識がなくなり、気づけば自室の天井が一面広がっていたのである。

(……あぁ、そっか。あれはこの世界の俺の記憶だったのか。)

そう呆然としていれば、自らの目がぼやけている事に気づく。
そして、ハラハラと涙を流していたのたった。

(…泣いてただとぉ!?……え、マジ?確かに最後の記憶は凄まじかった。よくこいつ、…いや、俺か。後ろ平気だったな。あれだけ犯されかけてたのに…)

この学園に編入してから、記憶の中の柳はバックヴァージンばかり狙われ、それは大層酷いものだった。
平凡だからと誰にも信用してもらえず、欲求不満の猿達の餌とされ、性の対象とされ。
これは何の拷問かと疑うレベルたったのである。

「お前、大丈夫かぁ?すっげぇ、うなされてたぞ」

そこには昨日出会った金髪青年の姿があった。

「……は?…え?うわ!?」

柳は何故ここに彼がいるのか理解出来ず、素っ頓狂な声をあげた。

「あ、もしかして知らないのかぁ?まぁ、昨日あんた居なかったもんな。どこ行ってたんだよ、この不良少年が。」

からかうようにニカニカ笑う恭介。
それさえもびっくりして、昨日からここにいたのかよ、と突っ込みを入れたのだった。

「名前見てねぇの?俺ら、同室。気づいたら、あんたここにいてさ、うなされてるから心配して見てた」

恭介の親しみやすい性格のお陰か、前から友達かのような空気が流れる。

「入っていいか?」

そう聞かれ、柳は素直に頷く。
恭介はちゃんとした常識人のようで、昨日の猿並みの行動は何だったのかと不思議でならない。

「よっこらせっ。あ、昨日はありがとな!お陰で良い出会いあったんだぜぇ。サンキュ!」

ベッドに座り、柳に向き合う。
そして、長く綺麗な指で柳の目元を優しく拭った。
零れ落ちる涙を何度も指で救う。

「怖い夢でも見たのかぁ?柳、お前、俺の弟みたいだな」

そう言って、優しく何度も頭を撫でられた。

「何歳、弟?」
「5歳」
「はぁ!?」
「お前、似てんだよなぁ。構いたくなる感じとか、ほっとけねぇ所」
「いやいやいや、5歳はないから!」

元気になった柳にほっとしたのか、恭介がニコニコと嬉しそうに笑った。

「やっぱ、柳、あんたは笑ってた方が可愛いって」

その言葉に、きっとさっきの弟発言は慰めてくれたんだと理解する。

「あ、そう言えば、護衛ついたんだな。ずっと廊下にいたぞ」

その言葉に、柳は首を横に傾げる。

「護衛って言うか、織田と右京だよな?…あの2人は俺の親衛隊なんだ…」

言いにくそうに伝える柳に、親衛隊って何だと不思議そうにする恭介。

「親衛隊って言うのは、俺みたいな奴の世話をしてくれたり、守ってくれたり、色々してくれるみたいで…」

(まぁ、夜の世話もするとか抜かしてるけど、それは伏せておこう…。ちょっとやっぱ変だもんな…)

柳は必要最低限の事だけ恭介に説明した。

「ふーん、じゃあ、それってファンってよりも恋愛感情に近い感じなんだ?話聞いてると」

恭介の言葉にぎょっとする。
そこそこ説明はしたものの、転入生なのに男同士が気持ち悪いとか全く思わない事が少し引っかかった。

「ん?あぁ、俺の反応ね?実は俺の恋愛対象、男だから。しかも抱かれる方ね」

そう言ってニカっと歯を見せて、爽やかに笑う。
セリフと言葉が合ってない。

「…え?確かに阿曽沼って綺麗だから、…そっか、だから全然びっくりしなかったのか」

柳はこの見目麗しい青年なら、誰でも虜にするだろうと思わずにいられなかった。
気さくで話しやすいし、何だか安心してしまう雰囲気がある。

「多分だけど、その織田ってのと右京っての?俺のダチだわ」

恭介の言葉に衝撃を受ける。
頭がついていかないとは、この事だろう。

「デカい紳士と、派手なオカマだろ?」

その言葉に柳は頷く。
本当に友達なんだと。

「へぇ、意外だわ。あいつら、柳が好きなのかぁ」

上から下まで眺め、恭介は考える。
嫌な視線じゃないので、柳は思わず警戒心を忘れてしまう。

「柳は男に興味ない?」
「え?…興味?いや、俺は女の子が好きだよ」

思った事を素直に伝えれば、恭介は残念と唇を尖らせた。

「そっか、あいつらも報われねぇな。けどさ、もしどうしても我慢出来なくなったら、言ってくれよ。」

恭介がゆっくりと近付き、耳元で囁いた。

「俺の事、抱いて良いよ」

色っぽい掠れた声に、柳は顔を真っ赤にして耳を抑えた。

「おっ、可愛いぃ反応!」
「そんな日は来ないよ!!」
「えぇ〜、がっかり」

ケラケラと笑う恭介。
どこまで本気なのかわからないが、後ろを狙われてないから良かったと思う柳だった。


2024.09.24

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