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食堂へ着いたまでは良かった。
だが、室内に入った瞬間、周りから感じたのはあり得ないものを見るかのような視線。
(……え、何、これ…?みんな、固まってる…?)
柳は何事かと周囲を見回す。
すると自分の背後にいる篠へと周りの目が注がれている事に気づく。
「夜蔵…」
「何だ?」
恐る恐る篠の名前を呼べば、声に全く変化はない。
振り返り、篠を見上げる。
「どうかしたのか?」
まるで縋るような柳の視線に、篠は表情を変えないまま見つめた。
「あの、さ…夜蔵って…、もしかして…人気者?」
その言葉に、篠は首を傾げる。
意味がわからないと言った所だろうか。
「小鳥遊が何を聞きたいのか俺には皆目検討もつかないが、確実に言える事は人気者ではないな。むしろ、友達がひとりもいない、そう言えば理解出来るだろうか」
篠の表情こそ変わらないものの、自分で自分をそこまで言う事の意味がわからない程、柳は鈍感ではなかった。
「…あ、いや…その…。夜蔵、違うんだ。そうじゃなくて…。その…」
柳は半ばパニックになりながら、違うと脳内で何度も否定する。
「どうかしたのか?」
全くもって柳が何を伝えたいのか理解出来ない篠は、無機質な声とビー玉のような瞳を向ける。
「夜蔵、勘違いしてる。夜蔵は自分が思ってるよりも人から好かれてるし、実際、やっぱよくわからないけど、それでもこうして俺とご飯食べに来てくれた!凄い感謝してる!だから、俺達もう友達だから!って言うか、俺こそ友達いないから、むしろ友達になって下さい!!」
柳は気づいてない。
自分が王道転校生のような言葉を言っている事にも、フラグを立てている事にも。
「そうか」
篠はそう言って微かだが、口元に笑みを浮かべた。
それを間近で見た柳の顔といったら、凄いものである。
目玉が飛び出るんじゃないかと言う程に、目を大きく見開き、固まっていた。
「どうかしたのか?」
一瞬でいつもの顔に戻り、柳は見間違いなのかもしれないと思った。
「ほ、ほら…、夜蔵は何が好き?俺は肉なら何でも好き!早く注文しよ」
よくわからないが、柳は恥ずかしくて堪らない。
それを誤魔化す為に篠の手首を掴み、カウンターへと進む。
初めて利用するから、仕組みがわからずオロオロする柳を横目に、篠の表情が穏やかに見えるのは気のせいだろうか。
「小鳥遊、注文は席のタブレットから出来る」
そう言って、今度は篠が柳の手を掴んで、まるで恋人にするように指を絡めて歩き出した。
さすがにそれには驚きを隠せない柳だったが、先程気まずい思いをさせたばかりなので何も言う事が出来なかったのである。
そんな二人の様子を見て、周りが更に驚愕したのは言うまでもない。
「俺は魚が好ましい」
そう小さな声がし、柳は目を大きく見開く。
「いつもひとりだったから、不思議な感覚だ」
篠の顔を見れば、いつもの無表情なのだが、何となく柔らかく見えるのは何故だろう。
柳は口をあんぐりと開け、しばらく彼を見続けた。
若干、顔が熱くなったのは内緒だ。
食事が来て、特に会話らしい会話をした記憶がないのだが、食べてる最中に篠と視線が合う率が高く、懐かない猫を手懐けたような感覚に陥る。
平凡くん、アンドロイドのフラグ立てました。
2025.01.04
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