tori


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真綿で包まれるとはこの事だろう。
そう、柳は感じた。
目の前にいる超絶和風美人は紳士なのだ。
もう柳が見とれる程に紳士なのだ。
大切な事は2回言いたい。

「小鳥遊くん、急にこちらまでご足労頂きまして、申し訳ありません。ご存知ではないかと思われますが、私、織田おだ玄心げんしんと申します」

美声から発せられる名前もまた、和風であった。
神は2物を与えずとは言うが、3物も4物も新たえるんだなと思ったが、忘れてはいけない。
ここはBLゲームの世界である事を。

「あっ、いや…その助かったと言うべきか!俺、帰ろうとしてたから!」

あ、口に出して言うてしまった。
と思った時には遅かった。

「お帰りになられる…のですか?何処かやはりぶつけてしまったのては…」

悲しそうに眉を下げるが、相変わらず目は閉じたままの玄心。
心配してくれてるのが、手に取るようにわかるからこそ、言いにくいものがある。

「いやぁ…、何て言うのかな?まだ本調子じゃないって言うか…」

柳はもうアセアセしながら言うのに、慣れてしまった。
罪悪感はあるものの、キャパオーバーである。
次々と現れるイケメン共に。
そして、この異様なまでの周りの空気に。

「誠に申し訳ありません…。小鳥遊くんの気持ちを考えず…私とした事が」

そう言って玄心は柳の頬に手を添えた。
ひやりとした冷たい感触に、一瞬体をビクつかせると、気付いたのだろう。
心配そうに手を離す。

「小鳥遊くんに気軽に触れるなど…申し訳ありません」

(いやいやいや、冷たかったから、びっくりしただけなんだけども!)

そんな柳の気持ちなど通じず、玄心が傷ついた表情を浮かべる。

「私が早く動いてさえいれば…良かったのですが…手続きに時間がかかりまして…」

不甲斐ないとばかりに暗い表情を浮かべる玄心。
まるで世界の終わりのような雰囲気だ。

(え、重い…闇落ち多くねぇか?)

「本日から、小鳥遊くんの親衛隊隊長になりました、織田玄心です。これからは貴方を私の全てを駆使して、全力でお守り致します」

そう言うや否や、玄心はいきなり床に片膝を立て、柳の足に触れる。
ベッドの上で体育座りして、靴下越しに冷たい指の感触に、柳は心底狼狽えた。
他人の、しかもさっきまで靴や上履きを履いており、若干蒸れてるような気がしてならないのに、そんな汚い物に何の躊躇もなく触れるだなんて。
と思っていたら、玄心の頭がどんどん下がって行き、学年カラーの紺の靴下に唇を寄せた。

「ひぃいいいい!!!!?」

思わず悲鳴、誰が想像しただろうか。
自分の足にキスをする人間がいるだなんて。
しかもこんなシチュエーションじゃなければ、相手が自分じゃなければ、ときめくようなシンデレラストーリーだ。

「え、…ちょっ…!?」

柳はあまりの出来事にバタバタと暴れて逃げようとし、足を引っ込めるも玄心の手によってそれは許されず。
親指の足先、靴下越しに、玄心の薄い唇の感触を感じたのだった。

「あぁ…何て光栄なのでしょうか…。やっと貴方に触れられます…」

うっとりとした顔をし、頬を赤らめ、微かに睫毛が震えてるようにも見える。
何という色気だろうか。
サラっと流れる黒髪が太陽の光を浴びて、輝き出す。
表情だけ見れば、柳が何かしてる側に見えなくもない。
それくらい、玄心は恥じらったように目元を赤らめ、薄い唇から甘い吐息が洩れていた。

「…はぁ、小鳥遊くんがこんな近くにいて、触れる距離にいるだなんて…。まるで夢のようです…」

ほうっと心酔しきった表情は艶やかで、同じ男と思えない程の色気を放っている。
鼻息が荒く、室内にフーフー響く音に目を瞑れば、なのだが。
そんな玄心を上から見下ろす柳の表情と言ったら、顔は引きつり、あり得ない光景を見るようなものだった。
気を抜けば、今にも倒れてしまえる程に顔色が悪い。

(え…?何これ?は?え?)

柳、ただ今、混乱中。


2024.07.05

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