クレアとの●●の話5


「つまり、以前から淡い恋心を抱いていた瑞樹さんに、彼女の鈍感さに賭けてレズビアンであることをカミングアウトしたら思惑以上にあっさりと受け入れたことが嬉しかったけど、旦那さんの登場で自分には絶対に向けられない様なあからさまに綻んだ顔を見て敵わない事を痛感して、八つ当たり半分でキスしようとしたら当然だけど拒否されて傷心中だから朝食は作りたくないと?」

「………………だから謝ってるじゃない」

「まぁ、いいですけど」

そんな泣き腫らした目で作られる食事は不味そうですしね、とため息をつけば、ぐすぐすと鼻を啜ったクロエさんが聞きたくないとばかりに布団を頭まですっぽりと被り直した。

男共には朝食は各自でと伝えよう。私が作ってもいいが、クロエさんの料理と比較されるのは御免被りたい。
この調子では店番も無理だろう。
さて、問題は件の彼女になんと伝えるか、だ。





***





「そういえばクロエさんは?」

リズさんとの会話の途中にちらりとこの家のダイニングを覗くと男達が各々自分の朝食を用意して食べていた。
普段ならクロエさんが全員分の美味しそうな朝食を作って並べているはずだ。その姿が今朝は無かった。

「クロエさんは体調不良で今日はお休みです」

「体調不良?大丈夫なんですか?」

「……寝てれば治る程度だそうですから、心配は無用です」

「そうですか」

昨夜の別れ際の行動の意図を聞きたかったんだけどなぁ。
明らかにおかしかった彼女の言動には何か理由があるとしか思えないし、なんだったら私が何か彼女を不愉快にさせることをしてしまった様な気がする。

「後でクロエさんの様子を見に行ってもいいですか?」

「……やめといた方がいいですよ、貴女は」

「え?」

「話終わった?瑞樹さん借りたいんだけど」

声をかけられて振り向くとルーカスさんがトーストの最後の一欠片を口に押し込みながら立っていた。

「どうぞ。私の話は終わりましたので」

「どーも」

ルーカスさんからの質問に簡潔に対応したリズさんは朝食をとりにキッチンに入っていった。

……なんか、今、2人が会話した一瞬の雰囲気がピリついてた気がする。
そういえば、この二人が会話するところを見るのは珍しい。
「レムレース」メンバー達の会話は、だいたいが普段から活発で強気で黙ってられないタイプのクロエさんを中心に進んでいる。その次に喋るのがスパイクさんだ。スパイクさんはクロエさんの言葉によく反抗しているが、口が達者なクロエさんに敵う程ではない。

リズさんもルーカスさんもクロエさんとスパイクさんの口論を静かに傍観しているタイプだ。一見気が合いそうなこの二人の仲は悪いのだろうか。

「俺の部屋来て貰えます?」

「あ、うん」

ルーカスさんに連れられて部屋に入る。
すぐに数枚の書類を渡された。

「頼まれて調べてたセラードの件なんですけど、数年前までベリアム議員と一悶着あったみたいです。あと、FBIのヴィクターもこれに噛んでるみたいですね。ベリアムとヴィクターが面識を持ってるかまでは分からないんですけど、やっぱりベリアム議員と取引があることは内密にしておいた方がいいかもしれません。少なくともセラードに関して仲良く協力捜査をしていた訳ではないようですから」

淡々とした説明と共に渡される資料に目を通す。
そこにはセラード・クェーツがニューヨークで暗躍していた事が記されていた。

セラードに関しての調査はこのニューヨークに来て本業や副業が一段落してからシャムに頼んだ仕事だった。

資料にはフィーロ・プロシェンツォに食われる直前の話だけではなく、数十年前まで遡った情報が載せられている。
思っていたよりセラード・クェーツという不死者は厄介な人間だったらしい。

ヒューイさんは数十年前、セラードから研究の一部を盗んでいる。ヒューイさんから記憶の一部を譲り受けたとはいえ、全ての研究を把握しているわけではない。そこから、セラードの過去を探れば私が知らない研究や実験が分かるかと思ったのだ。
いずれ来るであろう、ヒューイさんとの対立の為に。
シャーネをより確実に守るために。

「ありがとう。助かる」

「別にこれが俺の本業なんで。……ところで、なんかあったんですか?」

「え?なんかって?」

「いえ、リズと何か話し込んでいたようですから。クロエも珍しく体調不良だし」

感の鋭いルーカスさんの問いにぎくりと身体が強張る。しかし、内容的に男性に相談するのには気が引ける。

「……なんでもないよ。リズさんにはクロエさんの体調の様子を聞いてたの」

「そうですか」

ルーカスさんはどこか納得のいってないようだったが、深く追求はしてこなかった。
その淡泊な反応に安心して余計な事まで聞きたくなってくる。

「あのさ、シャムってさ、知ってるの?皆の経歴とか身の上とか……」

「皆って?この家に住んでるヤツらの事ですか?」

「うん」

「まぁ、一通りの事は調べてありますよ」

「ふーん。……じゃあ、シャムはリズさんな既婚者なの知ってた?」

「え?まあ、知ってますよ。ていうか、義母ですし」

「…………は?義母?」


2018.02.20
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