クレアとの●●の話6 「…………は?義母?」 「はい。このルーカスという個体はリズの旦那の息子の身体です。リズはルーカスの実母が死んでから娶られた後妻でルーカスの義母になります」 「…………え、えぇぇえええ」 後妻。義母。 予想外の言葉に変な声が漏れ出す。 「つまり、リズさんとルーカスさんは親子なわけ?」 「そうです」 まじかぁ。 予想外過ぎてちょっと頭を抱えたくなる。 いや、別にこの二人が親子で何か問題があるわけじゃないが、いやでも、しかし、そういう事は 「先に言っておいて欲しかったなぁ」 「そうでしたか?意外ですね。瑞樹さんってあんまり人に興味ない方だと思ってました」 「え、いや、まぁ、それは否定しないけど」 似たようなことクロエさんにも昨夜言われたな。 特にシャムはヒューイさんの元に居た頃の私を知っているしな。そう思われていてもしょうがないか。あの頃の私は、いずれ離れる世界に特別な感情は抱かないようにしていた。 それこそ、以前の私ならリズさんとルーカスさんが親子と知っても「ふーん」の一言で済ませていたかもしれない。 「リズとルーカスは歳が近いんで、母親って感じではないですけどね。因みに、この事は他のヤツらは知らないんで」 「そうなの?言わない方がいい?」 「特別隠している訳ではないですけど、面倒くさいので黙っててくれると助かります」 「分かった」 リズさんとルーカスさんの先程の会話を思い出す。 改めて考えると、親子の会話にしては随分と淡泊な気がする。でも血の繋がりの無い義理の親子な訳だし、逆にギクシャクしている面もあるのかもしれない。 ああ、でも、私の場合、血の繋がりがあっても、親子の会話なんて、 「それで?この家に住んでるヤツで経歴が気になるヤツでもいるんですか?元々、ヒューイ師が作った宗教みたいな集団なんで、経歴には問題が有るヤツしかいませんけど」 「あ、いや、気になるっていうか……。」 急に話題を戻されてつっかえる。 好奇心みたいな軽い気持ちで人の過去に踏み込んで良いものだろうか。しかし、昨夜の彼女は明らかに言動がおかしかった。 今日彼女と話すことは出来ない様だし、原因が私きりあるなら気になるし、謝りたい。 シャムなら、きっと何か知ってるだろう。 「シャムはさ、クロエさんがレズビアンなことも知ってたんだよね?」 「レズビアン?」 ルーカスさんが目を見開く。 「…………………………あれ、知らなかった?」 「初耳ですね」 経歴は一通り調べたんじゃないのか? 冷や汗が吹き出る。 クロエさん、ごめん。貴方のめちゃくちゃプライベートな秘密を暴露してしまった。 シャムでも知らない事があるという事実に驚くが、そりゃ、シャムだって万能なわけじゃない。 「レズビアンなんて、女同士の世界じゃないですか。男の個体しか乗っ取れない俺には分かんない事ですよ。ヒルトンとかなら知ってたかもしれませんが。瑞樹さんはそんな事どうやって知ったんですか?」 「………………昨日、クロエさん本人が教えてくれたの。家まで送ってくれてる時に」 「……それ聞いて瑞樹さんはどうしたんですか?」 「どうって?別に、何もしてないよ」 「……何も?」 シャムは驚いたようだった。 「クロエのその事、誰かに言いました?」 「言ってない。プライベートな事だし、シャムは知ってるだろうなって思ったから言っただけ。他の人には言うつもりはないよ」 「そうですか。それなら良かった。瑞樹さんの時代では知りませんけど、この時代の同性愛なんて、病人扱いですよ。キチガイです。人に知れたら有無を言わさず精神病棟行きです。もしくは刑務所ですかね」 キチガイ。 シャムの口から出てきた言葉に少しぎょっとする。 私の時代では同性愛を公言する有名人もいたりして、珍しくはあったけど普通の人と同じように生きている人達の印象があったが、この時代では違うのか。 偏見、というか、同性愛に理解が得られてないが故の差別だろう。 昨夜の彼女は私の薄い反応に驚いていたのはそれが原因かもしれない。 差別が当然のこの時代で、昨夜の彼女は本当は非常に悩んで自分の話をしてくれたのだろう。 昨夜の彼女は私の反応を見て、何を思ったのだろうか。この、自分がキチガイ扱いされる時代で。 「そんな話されるなんて、随分とクロエに信頼されてるんですね」 「そうかな」 信頼。 そんな言葉が当てはまるものだっただろうか。昨夜の彼女は。 「経歴とか身の上話のついでですけど、レヴィには気を付けた方がいいですよ」 「レヴィさん?」 |