クレアとの●●の話11 唐突な切り出しに横にいたリアムさんの顔を見上げる。 リアムさんは私に視線を下ろさず、真っ直ぐ前を見ながら話し続けた。 「妹っていっても実際血が繋がってるかは分かんねえんだけどさ。俺、スラム街に居たから親とかいなかったし。ただ、物心ついた時からずっと一緒にいたから周りから兄妹扱いされてて。ずっと一緒に居たんだ。盗みをする時も人殺しする時もずっと一緒に居た」 リアムさんの歩みが少し早くなる。 歩幅の違いもあり私の前にリアムさんが出て、彼の顔が見えなくなる。 「俺と妹がずっと一緒に居たのは、スラム街では子供が一人でうろついてると狙われやすいってのもあったからだ。だから、年齢が上がってくると別行動を取ることも出てきた。別行動を取る頃には俺も妹も身体つきがそれぞれ出来上がっていた。俺は声が低くなって身長も高くなってたし、妹は胸が出来てて女の身体になっていた。その頃は俺は女を引っかけて盗んだり殺したりしてたし、妹も男に対して同じような事をしてた」 リアムさんの声はそんなに大きくなくて、すれ違う人にも聞こえないような声量なのに、やけに耳に響いた。 「妹が『取り逃がした』って言ってきた。引っかけて財布盗んだ男を殺し損ねたって。逃げられたって言ってきた。小さい頃はよくある事だった。成長して身体がでかくなってからそういう機会は減っていたけど、でも驚く事じゃなかった。毎日そういう事してて、うまくいかない日だってそりゃある。だから特に気にもしなかった。だからその後も普段通り別行動をとっていた」 頭上から降ってくる言葉が重く感じた。 その重みに押される様に、気が付けば私の視線は自分達が歩く歩道に落ちていた。 「その数日後家に帰ったら、家って言ってもスラム街にある屋根の着いたただの寝床だけど、そこで妹がだらしなく寝てた。身体が大きくなってから寝床も別にしてたから、なんで俺の寝床に居るんだろうって不思議に思って顔を覗きこんだら」 リアムさんが言葉を1度切って、すっと息を吸った。 「すぐに妹が死んでることに気付いた」 今度は私が息を吸った。ひゅっと小さく情けない音が鳴った。 「ただ死んでるだけならまだマシだった。妹の股をみて、強姦された事は明らかだった」 はぁっとリアムさんが今度は息を吐いた。 「それ以来女を引っかけるのはやめた。女と目を合わせあるのも嫌になった。女を見ると妹の死体を思い出すから」 目の前の信号が赤になってリアムさんが立ち止まった。 「それが俺が女が嫌いな理由。ついでに「レムレース」に入った理由でもある。妹みたいに死にたくねぇなって思ってさ」 リアムさんの横に再び並ぶ。 視線を感じて目線を上げるとリアムさんの視線と絡んだ。 「コレでフェアな」 「えっ」 唐突な話に情けない声が出る。 「さっき、アンタに言いたくない事ずけずけと質問したヤツ。悪かったな」 「え、いや、そんな……。むしろコレじゃリアムさんの方が……」 こんな重い話を聞かせて貰ってはフェアどころか私の方が聞き過ぎなのではないだろうか。 どんな顔をすれば良いのか分からなくてリアムさんの視線から逃げる様に俯く。 「アンタって、やっぱ育ち良いよな」 しどろもどろになる私の顔を覗き込む様にして屈んだリアムさんがそっと微笑んだ。 それが私が初めて見たリアムさんの笑顔だった。 「ところでさ、アンタ、ルーカスとはどういう関係なわけ?」 「へ?」 ルーカスさんとの関係? 予想してなかった質問に首を傾げて聞き返そうとした時だった。 「瑞樹ちゃん?」 |