五つ目
無常様が言った明日とは、早朝のことだったらしい。
目が覚めて体を起こすと目の前に黒と白の塊が…

「おはようございます、巫女さま。勝手ながら目覚めるのを待っておりました。」
「おはよ、巫女さん。今日もいい天気だぞ。」
「むっ…無常様?!えっ?!わ、私の昨日の言葉を…」
「あぁ、ちゃんと用意したぞ。巫女さんを想う気持ちを伝えるもの、だろ?」
「え、はい…えっと…それで…その物っていうのは…?」
「我々からも一つよろしいですか?」
「…はい…?」
「今日一日、我々にお付き合いください。街へ行きませんか?」
「あぁ、はい…じゃあ用意しますね…」

何となく分かったかもしれない。
私と一緒に出かけて、欲しいと言った物を全て買うとか、そんな感じなのだろう。
出かけるのは嫌いじゃない。
緊張はするけれど、街を歩けるのだから損はない。

「………えっと…着替えたいのですが…」
「…?」
「あ、あぁ!門前で待ってる!身一つで良いから用意出来たら来てくれ。」

白無常様には伝わっていないのが分かった。
晴明様曰く、黒無常様は生前の記憶があるからまだ私達とそう遠くない考え方をする。
けれど、白無常様は正真正銘の妖だから人ならざる所を感じるかもしれない…
恥じらいという感情がないのか、それとも体を見たり見られることに何の抵抗もないのか…


「お待たせしました!」
「ん、よし!行くか!」
「今日は何もかも私達にお任せ下さいね。」

差し出された手にそっと自分の手を重ねる。
するとぎゅっと握られる。
でも痛くはない…安心できる温もり。
歩幅も私に合わせているのか、急ぐこともなかった。
お二人が案内された場所はどこも綺麗で、心奪われる。
昼時になれば滝が流れるすぐ近くの茶屋で、蕎麦を食べることになった。
お二人も私と同じものを頼み、食す。
そういえば、普段は何も口にしない…って言っていたような…
だけどまだ真意が見えてこない…
茶屋で少しの間のんびりとお茶を飲み、ひと休憩。
その後も様々な場所を巡った。
…一度も私に欲しいものはないかと、聞かなかったな…
僅かに顔を出す夕日に照らされた晴明殿へと帰ってくる。

「帰ってきちまったな…」
「…巫女さま、いかがでしたか?お気に召されたのなら良いのですが…」
「はい!とっても楽しかったですよ!ありがとうございましたっ。」
「なら、良かった。さて、でも俺達は帰らねぇぞ。巫女さんが寝るまで付き合わせてもらうからな。」
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