思うこと…
新任の宮司さんに雨乞いに必要な道具や手順を伝えていく。
彼を手伝う巫女さん達にも、唱えを書き写した物を渡したり…
慣れていないのもあって、少し準備に手間取ってしまう。
まさか宮司さんが、専用の衣の着方が分からないとは思いもしなかったけど…
少し慌ただしくしながらも一旦休憩も兼ねて、昼食を食べる。
珍しい配合の雑穀米で握られたおにぎりに、大根の酢漬けはとても相性が良かった。
熱いお茶でほっと一息をついていると、一人の男性に声をかけられた。
私より少し年上…いや、三十手前位だろうか?
やや緊張した面持ちで、近づく。

「今、お話とかしても大丈夫でしょうか…」
「はいっ、大丈夫ですよ。隣にどうぞ。」
「はっ、ありがとうございます…っ。」

彼が黒無常の言ってた人なのかな…?
お話するだけだったら大丈夫みたいだし、それに良い機会でもある。

「あ、あの…禰宜様…今回は来てもらってすいません…」
「良いんですよ、間違ったまま儀式をするのも良くないですから。」
「その…禰宜様は俺達と同じ小さな村の出と聞きやした…ほんとですかい?」
「えぇ、はい…ここからもっと離れた場所ですけど、そこも静かで…でも温かみのある良い村でした。」
「そうでしたかぁ…禰宜様から見て都はどんな所ですかい?」
「都ですか…?とても賑やかですね、毎日変わっていって…変化を見るのが楽しいです。」
「な、なるほど……」

気恥ずかしさで下手からではあるものの、見た感じとても働き者な人に見える。
頬には、手で汗を拭ってついた痕…みたいな土がついたままだ。
少しじっとしててほしいとだけ伝えて、手拭いで拭ってあげた。

「農作業ですか?お顔が汚れちゃってましたよ。」
「こ、これはお恥ずかしい!ああありがとうございます……」
「私もそろそろ仕事に戻りますね。またお話できたらしましょう!」
「は、はい!お気をつけて!」

軽く手を振って別れを告げる。
やっぱり余計なお世話だったかな……
汚れを指摘して、代わりに拭くなんて…
うーん…まぁ怒られはしなかったから、大丈夫かな?
でも、黒無常が言ってた人ではなかったみたい。
また暇ができた時に来るのかなぁ…それとも物陰から見る人なのかな?

あぁぁぁぁっ!
あのみこ様に触れられた!
近づいた彼女からは甘く優しい香りがして、手も温かくて柔らかかった……
俺だけに向けられた笑みは、一生の宝物だ…!
………一生の宝物…?
いや、あの笑みを毎日見たい。
俺と共に笑いあってほしい、絶対に!
そういえば、彼女に男はいるのだろうか?
いたとしても俺は奪い取る勢いで、彼女に惚れてしまった!
こ、今度話ができる時が来たら、自然に…そう、自然に聞いてみよう…
それにしても…やっぱり可愛かったなぁ…
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