熱中
日常茶飯事だからと言って、お辞儀をして帰っていく彼。
背が高く、長く美しい白い髪は、この都の人混みの中でも一際目立っていた。
優しく低い声がまだ耳に残っている。
爽やかに笑う表情に、紅く輝く瞳。
あんなにも美しくも格好良い男性が、この世に存在していただなんて…!
彼の口ぶりでは都に住んでいるか、働いているのかしら。
行きつけの店で彼の事を聞けば、何か分かるかもしれないわ…
いくら礼はいらないと言われても、私は…もう一度貴方にお会いしたい!
あの衝撃は源博雅様を拝見した以上だった。
確かに博雅様も格好良いけど、私の好みとは少し違う。
安倍晴明様の方が好みには近いけれど、落ちる程ではなかった。
そんな二人の好みだけを寄り合わせた様な、私にとってまさに理想の男性!
雰囲気も申し分なく、きっと想像通りの性格をしているに違いないわ。
実際、敬語だったし、別れの際にはお辞儀までして…
彼の名前は何と仰るのでしょう…
どこの方なのですか…?
まずは友人関係から始めさせてもらえないかしら…!?


「さっきの泥棒の人、何て言ってた?」
「ちょっと脅かしたら、逃げていきましたよ。」
「もう…また怖いこと言ったの?」
「いえ?特に変わった事は言ってませんよ。」
「ふーーん……………あ、今日は玉菜巻にしようかなって思うんだけど、白無常も食べる?」
「部屋に二人きりでも良いですか?」
「…えへへ、うん、良いよ!」
「作るのも手伝いますからね。それから風呂も共に!」
「そ、それはちょっと違う…」
「どうして…?一緒によい香りに包まれたくないのですか?」
「ず、ずるい……」

誘うかのように腰を抱いてくる。
もう、断りきれないの分かってて…
その手をそっと外して、腕に抱きついて歩く。
そんな私を見て、満足気に笑った。
そういえば今日は珍しく袴の衣装なんだなぁ…
歩く度に鎖が揺れて、いつもと違う雰囲気で…何だか腕を組んで歩くのが恥ずかしくなる。
ちらりと体を盗み見る。
…胸元は広いのに、やっぱり腰が細い。
すらりと長い足なのに、歩幅はいつも私に合わせてくれる。
手も大きくて、指も長くて細くて…ちゃんとした男の人なんだっていつも思い知らされる。
いつも物腰柔らかくて、乱暴なんて絶対にしない雰囲気を漂わせているのに…
………!
わ、私は一人で何を考えているんだろうっ!
うぅ…顔が熱い…前を向いて歩けない…

「どうしたんですか?…夜の事をさっそく期待していたりして?」
「…!?」
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