逢瀬
「みこ…僕は今、とても苦痛を感じています……」
「うんうん…一刻だけだから、頑張って!」
「一刻も、です!!」
「………女の人に優しくない白無常なんて、ちょっとがっかり…私そんな白無常好きじゃないや…」
「…!」
「私だって…仕事として割り切って…終わったら、ご褒美あげようと思ってたのにな…」
「乗り切りますから、その為の活力を…」
「ん、行く気になった?…行ってらっしゃい……」

ようやく行く気になってくれた白無常に、満足するまで唇を合わせる。
それにしても、こんなに嫌がるなんて思わなかった…
てっきり、渋々でも淡々と終わらせに行くのかと思っていたのに…
帰ってきたら思い切り甘やかして、褒めないと!


「お待たせしました…では参りましょうか。」
「はい…!今日はよろしくお願いしますね!」
「あの程度の事で、ここまで義理堅い人は、そういないので…少し驚いています。」
「あ、あはは…何だか少し無理を言う感じになってしまってごめんなさいね。」

普通ならお礼を断られても、まぁ出費が抑えられて良かったで終わるけど。
本当は貴方に会いたくて堪らなくて、話が出来たらなんてね。
そういえば、まだ名前すら聞いていないわ。
出かけるというのに、名前位は先に聞いても大丈夫でしょう?

「あ、あの、お名前をまだ聞いてませんでしたね。何とお呼びしたら?」
「そうですね…………白で良いです。私はこのまま『貴女』と、呼ばせてください。」
「分かり、ましたわ…白さん、落ち着いて話が出来そうなお店の予約を取っているの。そちらへ行きましょう?」
「なるほど、お願いします。」

名前を呼んでもらいたかったけど、何か事情がありそうな雰囲気。
きっと陰陽師の中にもそういった規定があるのだわ。
少し残念だけど、初回だもの…欲張ってはいけないわね。
事前に案内するまでの練習を何度かしたおかげで、迷うこともなく辿り着いた。
彼はこういった格式高い料亭に通い慣れているはず。
私はもちろん人生初。
だけど、恥ずかしい所は見せられないわ。
その為にもたくさん礼儀の本を読み込んできた。
全ては彼に気に入ってもらうため。
彼の隣で並ぶのに相応しい女性になるため!
受付員に引換券を見せて、一番奥の部屋へと案内してもらう。
今日のためにどれだけ努力したことか…!
でも今日からまた新たな一歩の始まり。
第一の掴みはとても大事、こんな良い男…絶対に離したりしないわ!
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