初仕事
向かう道中も他愛ない話をしながら、のんびりと歩く。
この前教えたからか、黒無常様がさっそく名前呼びするのに慣れなくてむず痒い。
庭園の皆はいつも禰宜か巫女呼びだから、凄く聞き慣れない。
さらには、黒無常様が倣って黒無常とだけ呼んでほしいだなんて…
そんなのもっと無理だよ…

「白無常様と違って、黒無常様は名前に凄く拘りがあるんですね…」
「……どうせなら、ちゃんと名前で呼びたいからな。」
「………」
「俺は弟の生前の名前も自分の名前も、記憶を奪われてないから覚えてるはずなんだが…うまく思い出せないんだ。」
「…?長く生きていたから、とかではなくてですか?」
「ちゃんと弟を世話した記憶もあるのに…屍人だからか、呼ぶことを許されないらしい。」
「では、お二人は『黒無常』、『白無常』が自分の名前になってしまったんですね。」
「それは役職名ですが、他に呼び方など作りようがないですし。僕は彼が兄だったかどうかも知りませんし。」
「俺がこうして弟、と呼ぶのも本当は名前を呼びたいのに、出てこない…けど、愛敬を込めて呼んでるんだ。」
「へぇ、初めて聞きましたね。だからと言って、何か特別な情けなど湧きませんが。」
「冷たいなぁ、俺の弟は。」

仲良さげに話すお二人に思わず、笑みが溢れる。
白無常様はそんなつもりじゃないかもしれないけれど、こういう兄弟って実際にいたりする。
素直になれない弟と、放っておけない兄。
良いなぁ、身内が傍にいて、お話できるのは。
私にもお姉ちゃんが欲しいかも。
たまにはいっぱい誰かに甘えたくなるから。
そうしているうちに、目的地へとついた。
確かに地面には食い散らかされた果物の残骸。
何処からか盗み捨てた看板。
皮が剥がされて傷んだ木々。
随分とお痛をしているようだ。
悪いことをする人には、お仕置をしないといけない!
さっそく妖力を感じ取るために、意識を集中させる。
無常様とは違う………弱い光が固まっているのを感じる。
そちらの方へゆっくりと進んでいく。

「お、天邪鬼発見。凄いなぁ、ちゃんと陰陽師としてやれてるぞ!」
「ここからは僕達の仕事ですね。すぐに終わらせます。」
「…ちゃんと出来るなんて思わなかったぁ…」

白無常様が旗をとんと地面に叩きつければ、黒い動く壁が出来た。
よく見れば手の形をしている。
異変に気づいた鬼達がうるさく騒ぐ。
そこに黒無常様が鎌を大きく一振。
その瞬間、静かな時間がまた流れ始める。
これではお仕置ではなく、処刑だ…
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