今、こうしてたくさんの式神たちに囲まれる暮らしは、ある一通の文から始まった。

私はとある村の神社の禰宜だった。
禰宜になるきっかけは、森の中で倒れている私を宮司様が見つけた話からになる。
どこから来たのか、何故倒れていたのかも覚えていない。
素性の知れない私を手厚く介抱し、弟子にしてくださった。
宮司様はかなりのご高齢で、神社の事はほぼ全て私が請け負っていた。
宮司様のご指導の下、仕事をこなし、いつかは宮司としてこの身を捧げる事になっていた。
そんなある日…

厄介な鬼共が夜中に宮司様を虐殺したのだ。

夜中、神社から少し離れた小屋で眠っていた時、物音に目を覚ました。
近くで動物か小妖怪が悪戯しに来たのだろうか?
しかし、妙に隣の…宮司様の小屋が騒がしい。
不安に思い、布団から抜け出し、隣の小屋の窓から中を伺うと…

「…っ…!?」

妖怪達がたくさんおり、その輪の中に宮司様が血を流していた。
恐怖のあまり声が出そうになるのを手でぐっと抑えた。
信じられない光景に視線が外せない。
金縛りにあったように立ち尽くしていると、一匹…大将と思わしき妖怪と目が合う。
背筋が凍りつく。
ここから逃げなければ…!
振り返れば既に妖怪達に囲まれてしまっていた。

「オマエ、巫女か。」
「そ……そうですが…」
「ふん…見たところ平凡なオンナだな。」
「オンナ!オマエ!ナンデ、アレガ?コロサレタか?ワカルか?」
「……結界…」
「オォ…そうだ!あの結界はとても邪魔だった!その主がこんな老いぼれだったとはな!」
「イラナイ!イラナイ!」
「邪魔ダッ!」
「だがもうこれで用はない。オマエはどうやらコレに何も教わらなかったらしいな。」
「ヘヘンッ!デキソコナ-イ!」
「オンナァ!大人しくここから!出ていけッ!」
「………」

妖怪達に好き勝手言われる、何も出来ない悔しさで涙が溢れる。
でも確かに事実なのだ。
宮司様は神事の仕事だけをやらせ、陰陽術のことは何一つ教えてはくれなかった。

「三日後の晩まで時間をやる。それまでにここを出ていけ。だが、その時にいた時は…わかるな?」
「…分かりました……それまでに去ります……ただ、村人達には手を出さないで。」
「ア-…別にコロシが好きじゃないからなぁ!計画さえ進んだらイイんだ!」
「そう……ならば、安心して出ていけます…ッ!」

妖怪達は俯いて涙声で話した私を、意地悪い顔で見物しながら立ち去っていった。
静かになり、宮司様の元へと歩く。
既に冷たくなってしまった体。
ごめんなさい…私…何も…できなかった…
せめて村の人と共に弔わせてください。
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