「禰宜様、ここを出ていかれた後はどうなさるので…?」
「行く宛てはおありですか?」
「旅でもしようかな、いつかしてみたいと思っていましたし…」

うそ。
本当はここを離れたくない。
だけど、離れないと殺されてしまう。
でも、今はどこに行くかだなんて、考えたくない。


「晴明、昨夜に南方の村にある神社の宮司が殺されたらしいぞ。」
「この時間にその知らせを聞くということは、それ程遠くないようだな。」
「しっかし…なんでまた急に…」
「陰界の裂け目が関係してそうだな。」
「噂では結界の主であった宮司だけが殺され、一緒にいた禰宜は見逃されたが、三日後までに出ていかないといけないってさ。」
「ほう…禰宜…か。」
「そいつは幸運でもあり、悲運でもあるよな………ん?何書いてるんだ?」
「行先の候補に名乗り出ようと思ってな。」
「情けか?」
「それもあるが…私にも少し弟子というものが欲しくなってな。」
「ふーん、晴明が弟子ねぇ……けどー…陰陽師と禰宜って役割が違うんじゃないのか?」
「陰陽術を使うことに変わりはないさ。」

文を書き終えた晴明は筆を置き、紙人形に託した。
敬礼した紙人形は、軽快な走りを見せながら門の外へと消えていった。


宮司様がいなくなってしまっても、仕事はある。
ここを離れるのならば、それなりの事はしなければならない。
がむしゃらに夜も眠らずに作業をして、喪失感を紛らわせていた。
二日目の昼に私宛にある一通が届いた。

「禰宜様、先程紙人形からこの紙を渡されました。」
「紙人形から…?」

という事は陰陽術を使える誰かからの文。
綺麗に折りたたまれた紙を開き、読んでみる。

「安倍…晴明………私を弟子に…?」
「おぉ…!あの安倍晴明がそのようなことを!」
「……」
「安倍晴明の下なら我々も安心です…ぜひその話を飲んではいかがでしょう。」
「…そう…ですね………断る理由がないですし…」

私が頷けば村人は安心したように微笑んだ。
そうだ…私が村人達を不安にさせてどうする?
残りの作業も終わらせ、神に別れを告げる。
村に下りると都に向かうための牛車が用意されていた。

「皆さん、今までありがとうございました。」
「いーや、こちらこそだぁ。後はおら達で頑張っからよぉ。」
「禰宜様、どうかお幸せに。」
「無事に都に着きますよう祈っております。」

たくさんお世話になった村人達に見送られながら、都にある晴明殿へと向かった。
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