祠が見える前にあの日襲ってきた妖怪達が、焚き火を囲んでいた。
大将が気配に気づく。

「オヤァ…?禰宜さまがこんな夜更けに何の用だ?」
「あの日は何もできない自分を悔やみ、恨みながらこの村を去りました。ですが、もうお前なんかには負けない!村のためにも死んでもらう!」
「オイオイ、手出さねぇって言って、逃がしたのに…死にに来たのか!」
「ヒヒッ!カシラ!ヤロウゼ!」
「女、うまそう、食いたい!」
「お前一人で何ができる?」

矢を構えた手に力が入る。
よほどおかしいのか腹を抱え、蹲っている鬼の頭を撃ち抜く。
笑い声が一つ消え、その鬼は前に倒れ動かなくなった。

「手下に何しやがるッ!」
「宮司様を殺したお前に咎められる理由はない!」
「オイ!お前ら!全員出てこい!ぶっ殺してやるぞ!」

雄叫びによりこれまで影に隠れていた鬼達が一斉に出てくる。
前から。横から。後ろから。
圧倒的な数に囲まれる。

「おい、お前らであいつを捕まえろ。」
「アイーッ!」

大将の両隣にいた五匹が前に出る。
それに後ずさりして距離を置く。

「ウワ?!ナ、ナンダ?!」
「ギィッ!ギャ!ギャッ!」

前に出た鬼達の足元から黒い手が伸び、それが手足を拘束した。
ザクッ!
右側の背後から風が巻き起こったと思えば、黒無常様が鎌を手にし、鬼達を切り裂いていた。
左隣にどこからか現れた白無常様が並ぶ。

「これで全部出てきたのか?」
「思ったより多いですね…」
「くそがッ!!!!!お前ら!あいつらを殺せエェェェ!!!!!」
「来るぞ!」
「巫女さま!絶対に私から離れないで!黒無常の援護を!」
「はい!」

大きな鎌を自由自在に扱い、妖怪達が次々となぎ倒されていく。
地から現れる黒い手が妖怪達の首や手足をへし折る。
離れた場所では爆発が起こり、燃えた体が四方にいる鬼達に降り注ぐ。
これが冥土の力…
黒無常様を背後から襲う鬼を矢で貫く。
矢は体を貫いたまま奥にいた鬼たちも巻き添える。
博雅様の矢を分裂する矢と呼ぶなら、私は貫通する矢。
霊術がこもった破魔の矢は、何をも貫く。
囲んでいた大衆はあっという間に崩れ散っていく。

「ナッ…!…クッ…」
「あとはお前だけだな…巫女さん、その手で終わらせろ。」
「この畜生がァアアッッッ!!!!!」

怒り狂った大将は鋭い爪と牙を剥き出しに飛びかかってくる。
その体に狙いを定め…渾身の力で矢を放つ。
まっすぐに矢は心の臓を貫いた。
力が抜けていき、最終的にはドサリと地に落ちた。
先程放った矢には封印の種を仕込んでいる。
後は近づいて型を…
ガシッッ!

「キャッ??!!!」
「ウ"ア"アァァァ""ッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ア"ッ──────」
「………」
「く…くろ…むじょ………さま…」

鬼の頭が胴体から離れ、ゴロリと転がり外れた。
黒無常様に立ち上がらされ、力をなくした手が足から離れる。

「もう術はいらん、こいつは死んだ。」
「黒無常、手を下せばどうなるか分かりますよね?」
「…巫女さんが無事ならいいんだ。」
「…、……」
「さ、帰ろう。放っておいても死体は無くなるから。」
「は…はい……」

私には冥界の掟は分からない。
だけど、きっとやってはいけないことを黒無常様はしてしまったんだ。
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