導き
どれ位走ったかはよく覚えていない。
気がつけば雑木林の中に迷い込んでいた。
しまった……あまりにも無我夢中に走りすぎた…
そっと紙人形を懐から取り出す。
………誰にしよう。

「………姿を現したまえ、一目連!我が身に加護の力を!」
「承知したぞ、主殿。」
「…目連様…ッッ。」

顕現させた式神さんに抱きつく。
きっと黒無常が心配してるはず。
でも暫くは会いたくない…

「主殿、どうしたのだ?我はどうすれば良い?」
「…とりあえずこの林から抜けたい…」
「うむ、分かった。」

落ち着いて見ると、背丈より何倍も高く伸びる木々に囲まれていた。
こんな所に長居していたら、何に襲われるか分からない…
不安に思いながら手を繋いで、道案内についていく。
ガサッ! …ガササッ!

「へ、な、何…?」
「主殿、大丈夫だぞ。あの辺を見てると良い。」

指さされた方を見ると、付近で草が揺れて、その揺れが近づいてくる。
隙間から顔を出したのは…
可愛らしい体格が少し大きめの黒猫だった。

「みっ…?!みゃあっ!」
「……大丈夫だよ、おいで…?」
「……みゃー……」

あちらも驚いたようだが、人懐っこい猫のようですぐに擦り寄ってきた。
猫の挨拶を済ませて、その体を抱きあげる。

「連れて行くのか?」
「うん、もしかしたらこの子も迷子かもしれないし…」
「うむ…そうだな……主殿、足下に気をつけて進むのだぞ。」

大人しく腕に抱かれたまま、黒猫と一緒に雑木林を抜ける。
変な妖怪と出会わずにすんで良かった。
抜け出したと思えば、猫が身を捩る。

「あぁ、ごめんね。降ろそうか。」
「みー………」

そっと地に降ろせば、私の顔をじっと見つめてから前を向いた。

「…主殿、どうやら着いてきてほしいようだぞ。」
「そう…なの?」
「みー……」

歩きだして進むのを見ていると、やはり振り返って私の顔を見る。
よく見ると足下を掻いていた。
試しに近づくと、猫はまた進んで振り返る。
…着いていくのも悪くはない。
今なら式神さんもいるし、帰りも迷うことはない。
猫の歩幅に合わせて、ゆっくりとついていく。

それから暫く歩いていると、一つの神社の前についた。
猫は鳥居の前で最後振り返った後、社の後ろへと消えていった。
こんな所に神社があったなんて…
至る所に赤い糸が結ばれていて、ここが縁結び神社であることを窺わせる。
あの黒猫はここの守猫だったのかな。
2/5
prev  next