肆*
「禰宜さま…その衣装、とてもよく似合っていますよ。」
「えへへ…本当ですか…?嬉しいです…」
「禰宜さまは今幸せの絶頂期にいるのでしょうね…」
「ふふ…私…無常のお嫁さまになれるんだ…ずっと…夢見てたの…」
「その幸せな夢、私にも見せていただけませんか?」
「…夢見の術…ですか…?いいですよ…」
「ありがとうございます…さぁおいでなさい…」

袖を振りながら幸せに浸る禰宜様を寝かせる。
膝枕の上で眠る彼女は、生気をすっかり失っていた。
頬に触れれば生者ではない温もりを感じ、胸が痛くなる。
あぁ…本当に死んでしまったのですね…
貴女が死んだ理由…私に教えてくれませんか…?


彼女の夢の中に入れば、桜が舞う晴れた空の下で誰かを待つ禰宜さまの姿。
きっと無常兄弟を待っているのだろう。
そう思えば私の後ろ側から二人がやってきた。
嬉しそうに駆け寄り手を握る。

「無常!待ってたよ!」
「すまんすまん、ちょっと残りの仕事に手こずっちまった。」
「お待たせしてすみません。」
「さっ、ここに座ってて!」

ぱたぱたと部屋の奥に消える彼女。
縁側に座って待つ二人は何かを楽しみにしている。
暫くして団子とお茶を持って戻ってきた禰宜さまが、二人の間に座る。
持ってきた盆は白無常に取られ、隅に置かれてしまう。
それを追いかける手を黒無常が掴んだことで、思わず振り返る。
そしてそっと口付けを交わした。
あぁ、何と幸せな光景なのでしょう…
その二人に見蕩れていたが、ふと白無常に目がいく。
彼は何を……

「………っ…!!」
「桜、綺麗に咲きましたね。」
「うん、そうだね。二人と見れて嬉しい…」

今、彼は確かに毒を盛った。
一つだけではなく、全ての茶に毒を注いだ。
どうしてそんなことを…

そうして何も知らない禰宜さまは、口に含んでいく。
毒はさほど強くないのか何事もなく、半分程を飲み干した。
二人に挟まれた彼女は全身を撫でられ、反応してしまうことに頬を染めていた。
今度は白無常が口付ける。
思えば二人はほとんどお茶に口をつけていない。
恋人らしく手を繋ぎながらも初々しい表情を見せる。

「…なんだか…眠くなってきちゃった…」
「暖かいですからね…お昼寝でもしますか?」
「うー…ん…もっと…おはなし……」
「みこ、苦しくはないか?」
「くる…しい…?……ううん…」
「聞かない約束だったのに…まぁ良いでしょう…さぁ、ゆっくり眠ってください…」

その反応は暖かさによる眠気ではなく、毒による麻痺なのだと思うと見ていられない。

「毒使ってもこんな綺麗な姿のままでいけるんだな…」
「…ど…く…?」
「大丈夫ですよ…ふふ…ずっと一緒ですから…」
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