だらりと力を無くした禰宜さまの体を見て、本当に殺されたのだと感じた。
思わず涙が溢れる。
こんな夢があっていいのでしょうか…?
幸せだと思うのに、現実はあまりにも残酷で…
あまりの衝撃に目を背けたくなるが、まだ続きはある。
死んでしまった彼女の体を黒無常が抱える。
鬼使いである彼らにとって生者でも死者でもあまり関係ないのだろう。
暗闇に包まれたと思えば、冥界へと来ていた。
歩き進む二人を追う。
辿り着いた場所は審判の間。
その門を潜り抜ければ、正面に閻魔様の姿が見える。

「…!その腕に抱えているのは…巫女ではないのか?」
「そうだ、ふっ…どうだ…綺麗だろう…?」
「…………」
「それで…お前達は何をしに来たのだ?」
「みこを私達と同じ存在にしていただきたいのです。」
「それはみこがそう言ったのか?それが未練と受け取るが…」
「あぁ…」

眠った彼女の体を閻魔様に預ける。
これ程までに彼らの嘘が、真実とされたとは思わなかった。
これ以上はもう覗いていても意味がないだろう。

「そこにいるのは不死の巫女であろう。」
「…!」
「不死の巫女よ、全てを知ったとしてもこの兄弟を正すことは叶わぬ…」
「私はただ…真実を知ることができたのなら…」
「しかし、それはあまりにも美しくも残酷な夢だっただろう?一つ忠告しておく。」
「はい、何でしょうか。」
「彼女に対してこのことを触れてはならぬ。さすれば彼女の心は壊れ、もう元に戻ることは無いだろう…」
「……」
「妾もそれは避けたいのだ…この結末を否定せず、受け入れるしかそなた達にはできぬ。」
「閻魔様もそうすることしかできないのでしょう…?」
「あぁ…だからこそ、彼女の心だけは守ってやってくれ…」
「分かりました…では、私は戻ります。」

夢から醒めれば一筋、涙を流して眠る禰宜さまの姿が。
彼女はきっと覚えているからこそ、この夢を見ているのでしょう。
しかし、それはあまりにも受け入れ難いもので、心の奥底に封じ込めたに違いありません…

「………、………八百比丘尼さん…?どうしたんですか…?!」
「……禰宜さま…」
「あぁ…綺麗なお顔が…」
「禰宜さま…どうかこの先が幸せに満ち足りたものであるよう、祈っております…」
「…八百比丘尼さん……」

あぁ、本当にお優しいところは変わっていない…
確かに心は彼女のままのようで安心した。
真実も知り、涙を抑えれば部屋へと戻る。
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