一.これ、あいつに合いそうだなあ
ふと目に入ったその髪飾り。
俺自身りぼん結びが好きなのもあるかもしれないが、じっと見つめる。
夏とか作業するときによく髪を結んでいるんだよな…
半分だけ髪をまとめて、清楚な印象を与えるあの姿…
簪よりこういう髪留めの方が喜んだりするのか?
小さな物にひたすら考えを巡らしていた。

「お兄さんや、何をそんなに悩んでるんだい。」
「…ここの店主か?」
「あぁそうだよ、私と私の娘で全部作ったものなんだ。」
「へぇ…いい趣味してるじゃねぇか、婆さんよ。」
「もしかして、好きな子でもいるのかね?」
「…!ま、まぁ…そんなとこかな…」

婆さんの「好きな子」と言う言葉にどきっとする。
そうか、俺…あいつの恋人ってやつなんだよな…
普段は鬼使いの仕事ばかりが嵩張って、あんまり時間取れてなかったな…
でも、そんな俺でもいつでも笑顔で迎えてくれる…あぁ、早く会いたいな…!

「図星なようだねぇ、ヒャヒャヒャ!」
「…、…な、なぁ婆さん…その…世話になっている礼にこれを贈るのは、どうだろうか…?」
「髪が長い子なんだねぇ、うーん。」
「やっぱり甘いものとかのが良いかな…」
「そうさねぇ、お兄さんはそれが気になって仕方なかったんだろう?」
「………」
「その子はどうだか知らないがねぇ…気持ちさえ本物であれば、喜ぶよ。」
「気持ち……か…」
「その髪留めをつけた姿が見たいのだろう?うんうん…正直に言いなさい…自分を思っての贈り物ほど嬉しいものはないからねぇ。」
「……そ、そっか……じゃ…これ…貰ってくわ……」
「はいよ。」

恋する黒づくめの青年は照れくさそうにしながらも、手に取ったものを大事そうに持っていく。
あんなに真剣に悩んでおきながら迷うなんて、初心な子だねぇ!


「あっ…黒無常さま、こんにちは。」
「お、おう…元気にやってるか?」
「はいっ。今日も一つお仕事を任されたんですよ。」
「順調そうだな…」

優しく微笑む姿を直視出来なくて少し視線を逸らしてしまう。
どうして私と話す時だけ笑い方が違うんだろう…っ!

「あ、あのさ…これ、みこに…」
「…!わぁ…可愛い…っ…もしかして黒無常さまが…?」
「お、俺…こういうの結構好きでさ…でもその…似合いそうだなって思って…」
「ふふ…嬉しい…今つけてみてもいい…かな…?」
「あぁ、見れるのなら。」

結んでいた紐を解いて、もう一度結び直してみる。
蝶のように見えるりぼん結びの髪留め。

「ど、どうかな…?」
「うん、やっぱり似合ってる…可愛い…」

そっと額に口付けを落とした彼は、嬉しそうに笑った。
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