四.口づけしてくれたら起きます
「起きてるよね?もう!白無常ってば!」
「やです…」

目を閉じたまま、私の体を抱きしめて離さない。
外から犬神さん達が呼ぶ声が聞こえたから、返事をして向かおうとした。
でも、起き上がろうとしたら、全然離してくれない。

「白無常?もしかして寝ぼけてるの?」
「………」
「大丈夫、すぐ戻るから…」
「だめです。」
「…起きてるよね?」
「寝てます。」
「……?ね、ねぇ行かなきゃいけないから…」
「…………」
「…白無常起きて!」
「………口づけしてくれたら起きますよぅ…」
「もうっ!」

起きてるのに意地を張って、力強く抱きしめたまま離す気がない。
胸元で深く息を吸いこまれ、匂いに浸られる。

「柔らかくて……温かい…」
「禰宜殿ー?どうかされたか!」
「い、犬神さん!こっんぅー!」
「禰宜殿ー?」
「呼ばれては面倒なんですよね…」

ようやく目を開けたと思えば、鋭い眼光を向けられた。
き、機嫌悪くしちゃった…?

「まだ調教が足りなかったみたいですね。」
「へ…?」
「怯えないでくださいよ。こんなにも旦那が恋しがっているというのに…」
「で、でも犬神さん達の主人は私だし…」
「部下と旦那、どちらを優先するつもりで?」
「…、………」

抱きしめていたのを転がされて、覆い被さられる。
逃がす気がないのが丸分かりだ。
それに腕を押さえつけられているせいで、嫌な予感しかしない。

「お、落ち着いて…?少し用件を聞きに行くだけ…だから…」
「そうですか、そちらを優先しますか。」
「そ、そうじゃなくてっ。」
「禰宜殿?」
「!」
「チッ…」

心配して様子を見に来てくれた犬神さんのおかげで助かった。

「白の鬼使い殿、あんまり禰宜殿を困らせないでいただきたい!」
「困らせる?いいえ、みこがした事ですよ。」
「…?!」
「そ、そうだったか…ではわしは邪魔者…」
「ち、違う!違うよ!白無常が離してくれなか」
「すまん、すまん。やはり早朝はやめておいた方がよかったな。」
「犬神さん…!」

だめだ、全然信じてくれない…
それにまた二人きりにされそうな雰囲気。
扉が閉まれば、間違いなく白無常に泣かされる!
急いで犬神さんの元に近寄る。

「ね、ねぇ犬神さん、用事があるんでしょう?」
「え、あ、あぁ、すまない…」
「い、いいの!さ、早く行こ!」
「………」
(今夜は絶対泣いても許しませんからね…)
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