九:普段と違う匂い
「なぁ…なんか、いつもと匂いが違う…」
「へ…?」

暑い夏の時期だと言うのに、全身黒色の姿でぎゅうっと抱きしめてくる。
暑い、とても暑い……
妖怪で鬼な黒無常には暑いも寒いもないのだろうけど…
密着されると必然的に熱がこもってきて、余計に暑くなってくる。
すんすんと首の付け根の匂いを嗅いでくる。
癖だとは分かっていても、今の時期はやめてほしい…

「そりゃあ…汗くさいでしょ…」
「んー?そんな上辺の匂いじゃなくてさぁ…」
「汗の臭いが上辺の匂いって…?」
「そう、人って変化しない本質的な匂いと、環境変化によって変わる匂いがあるんだよ。」
「…なるほど?だから上辺と……じゃあいつもと違うって、その本質的な匂いが?」
「そーそー……いつもなら春の匂いと蜜が混じったような匂いがするんだけどさ?」
「え…そんないい匂いなの…??信じられない…」
「だから、狙ってるやつは多いって…だけどよ、今日は違うんだよなぁ…」
「どんな匂い…?」
「んー…よく覚えてる臭い…血の臭いがする。」

その一言で背筋が凍る。

「へっ、へー…ね、ねぇ、その臭いって結構目立つ…?」
「人本来の匂いは人間には感じ取れねぇぞ?普段でも犬とか俺たち妖怪とか、嗅覚がよかったりしないと。」
「……………」
「どうした?」

じゃ、じゃあもしかして犬神さんに血生臭いって思われてたり…

「ていうか、何でこんなに血の臭いがするんだ?大怪我しない限りは…」
「あ、あー…えっと…気にしなくて大丈夫…」
「……なんか顔色悪いな?本当に大丈夫か?」

冷や汗がじわりと流れる。
確かに昨日から…月のものが始まってるけど…
でも、こんなこと言いにくい…

「はぁ…抱きたかったんだが、なんか萎えたな…」
「私にはありがたい話だよ…」
「………ぶち犯す。」
「ま、待って!!本当にありがたいの!!」
「はぁ??俺に抱かれるのは不本意ってか?むかつくな。」
「そうじゃなくて!ちょっと聞いて!」

併せを掴んで開こうとする手を必死に抑えながら説得する。

「納得する理由、教えてくれたらな。」
「………………」
「…犯す。」
「待って!言う、言うから!」

渋々と今は月経中だから、と言うときょとんとした顔になった。

「げっけいって…何だ?」
「へ…?」
「それが血の臭いと関係あるのか?」
「本当に知らないの…?」
「あぁ、初めて聞いた。」

まさか知らないとは思わなかった。
初めての時も手慣れたように抱いていたから、てっきり知識があるのだと…

「言っとくけど、俺は小さい頃に死んでるし、女はみこ位しかまともに触れた事ないぞ?」
「…………」
「みこも俺も白無常も初めて同士だったって気づかなかったのか?」

何それ、早く言ってよ…
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