十三:理由不明の怒り
「…みこ、どうしてそんなにも不機嫌なんです?」
「……」
「僕が何かしました?……うーん……けど、心当たりは……」
「……白無常は悪くない…けど…白無常のせいだもん……」
「…はあ……」

抱擁をしようと思えば拒まれ、背を向けてこちらを威嚇する。
最初は寂しさに少し拗ねてるだけかとも思ったが、どうやら違うらしい。
ここ数日の記憶を遡るも、彼女の機嫌を損なわせるような言動をした覚えはない。
訳を聞いてもいまいちよく分からない事を言われるし…

「……僕のせいってどういう意味です?」
「………」
「…………困りましたね……早くみこの癒しが欲しいです…」
「……白無常が………」
「…ん?」
「…白無常が優しいから……女の子の気を引いちゃうんだよっ。」
「おや……そうでしたか…」

いつのどこの誰だか分からない女性の心を揺らしたらしい。
恐らくその女性とまた会い、僕についての心情を明かされたのだろう。
つまり……

「対抗心、ですか。」
「…!…うぅ…そんなんじゃ……」
「その方に取られるやもと思ったのでしょう?」
「………だって白無常が優しくて!」
「はい。」
「綺麗で!」
「…はい。」
「でも逞しくて!」
「ふむ。」
「…白無常との縁が結ばれると良いな、なんて言うんだもん…!」
「そうでしたか!」

感情が抑えきれず思わず、笑みがこぼれてしまう。
嬉しそうにしていると知れば、ますます唇を突き出す。
怒ってる顔も可愛らしいですね…!

「ふふ、すみません…あまりにも可愛くて…」
「…!こ、こっちはそんな目で見られるのが嫌で堪らないのに!」
「大丈夫ですよ、呆気なく恋の愁いに沈みますよ。」
「……でも…それは…」
「哀れだと思いましたか?ハハ…恋とはそんなものですよ、普通は。」
「………こんなこと思うなんて…どう思う?」
「とても可愛らしいです…でも、そんな心配は必要ないですよ。みこしか見えていませんから…」
「………」
「あぁ、そうですね…もし僕がみこと同じ状況になれば、その男は潰してしまうでしょうね。」
「…?!」
「ふふ…例え話ですよ。」

でも、そういった不安に駆られる姿もまた愛おしい。
この様子だと、まだまだ愛が染み入ってないようですね…
どうすれば良いでしょうね。
少しは機嫌を直した彼女を抱きしめ、頬を擦り寄せる。
あぁ、この腕に収まる感触…照れ笑いする吐息。
全てが僕だけのもの……堪らない…
今日はひたすらこうして触れ合おう。
そうすれば、少しはこの愛の重さに沈んでくれるでしょう……
13/20
prev  next