契約
悲しみにくれ半分絶望した感情の中、声をかけられた。
『兄ちゃんに話してみな』と言う彼。
歳は近いようだが、私が少し幼顔で小さいから、まだ子供だと思われたかもしれない。
じっと見つめる目は鷹のように鋭く、怖いはずなのにどこか優しさを感じた。
一生懸命話す私の頭をあやす様に撫でながら、じっと聞いてくれた。
黒っぽい姿に青色のマントはよく映えていた。
足に銃を備え付けていたが、この人が暴力を振るうようには見えなかった。
だから、傭兵だと言い、復讐を誓約に話を持ちかけてきた時はとても驚いた。

「ふく…しゅう…」
「俺がアンタのじいやを殺した奴らを始末する。お前はその結果だけを見ればいい。」
「………」
「話の様子じゃ、初犯でもなさそうだし…奴らの金品を貰ってギルドに資金として充てて経済を回す。」
「……………」
「…俺は嘘はつかんぞ。」

差し出された手は、握った瞬間に契約成立を意味するのだろう。
復讐……
確かに私はじいやを殺したあいつらが憎い。
けれど、じいやはどんな人でも生を己が力で全うする義務があるといつも言っていた。
それなのに私が蔑ろにするような事をしたら、じいやはどう思うだろう…
けれど、私は許せない…
………
もしかしたらあいつらが生きていたら…また無意味に誰かが殺されるかもしれない…
そんなのダメ…
悲しい思いをする人は私で最後にしなくちゃ…!

「……よ…う…へいさん…」
「ん?」
「私は…私……あいつらがまた人を殺して悲しむ人が増えるのは嫌です!」
「うむ。」
「だから…傭兵さん!彼らに罰を与えてください!」

ぎゅっと両手で力強く、縋るように手を握った。
前のめりに伝え、握ったのを上から空いた手を重ねた。

「断罪か……良いだろう、俺にピッタリだ。契約成立だ。」
「…!!」
「よし、まずは弔いに手を貸してくれた武器屋に案内してくれ。」


彼の顔はとても広かった。
私の傭兵のイメージは、傷んだ服を着て口元をマフラーなどで隠しているような…
目立たない、暗躍人な者だと思っていた。
けど…彼はよく目立つ。
背も高いし、何より青色のマントが存在を誇張させている。
武器屋の人と話しているのを聞けば、やはり前科があったらしく…
アジトが何処なのかも凡そ見当がつく程の有名どころだった。
どんどん口角が上がっていくのを見て、不安に思う。

「ふ…こりゃいい案件だ…」
「どうしてですか…?」
「ん、奴らはなぁ前々から処理すべき団だったんだが…その機会というのがなかった。」
「…私が契約したから…その機会になったと…?」
「あぁ、奴らはかなりの人から金品を奪っているはずだ…それに、潰せば縄張りを荒らされることもない。」

目的の先にお金を見ているところは、さすがに傭兵らしいと思った。
でも、どうやって制圧するつもりなのだろうか…
まさか足にある銃だけで、やってのけるつもりなの…?

「傭兵さん……少し聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「彼らをどうやって始末するんです?もしかして、その銃ですか?」
「あ?武器のことか?…この銃は自決用だ、戦いには使わん。」
「へ…?じゃあナイフとか隠し持ってたり…?」
「はは、まあそう焦るなって…言っただろ?断罪するのは俺がピッタリだって。」
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