遂行
含みのある言い方の意味は、今は分からない。
ただ情報収集を徹底的に行い、綿密な計画を練る姿は尊敬するところがある。
日が暮れ始めると、約束通り宿を確保してくれた。
しかも、この町では結構いい宿だ。
フカフカのベッドにシャワー付き。
こんなにも良い宿なんて…

「どうだ?気に入ったか?」
「は、はい…凄く…良い宿で…こんな所に泊まって良いんですか…?」
「良いんだよ…お前は俺の『主様』なんだからな。」

本当に彼はいい人なのかもしれない。
屈託のない笑みを向ける姿に警戒心は薄れていく。
こんな機会はもうないかもしれない。
そう思うと、彼の事をもう少し知りたくなった。

「傭兵さん…私とお喋り…付き合ってくれませんか?」
「あぁもちろんだ…だが、喋りすぎはよくないぞ。隠し事は隠したままにするのが鉄則だ。」
「もう私には隠すことなんて、何もありません…」
「………そうか…」
「傭兵さんについて、聞いてもいいですか?」
「おぉ、何でもいいぞ。答えられることなら何でも教えてやろう。」
「……傭兵さん、私のこと子供だと思ってるでしょう?」
「…!……何でそう思うんだ?」
「だって…会った時に『兄ちゃんに話してみな』って!私、お酒も飲める歳なのに!」

今思い出すと相当におかしな話だ。
自然と笑みが溢れる。
笑ったら失礼なのに、止めることができない。

「お、お前なぁ!しょうがねぇだろ…ガキみたいに泣きじゃくってたんだから…」
「でも、ありがとうございます…救いの手を伸ばしてくれて。」
「ん…そうか。なら、俺は嬉しい。」

運ばれてきた夕食を談笑しながら、平らげる。
明日に備えるためにも早く寝た方が良いと、ずっとよく面倒を見てくれる。
傭兵さんも明日に備えて、ベッドに入るよう言えば遠慮される。
契約主という口実を使って、添い寝してほしいと言えば渋々入ってくれた。

(こいつ…男と同じベッドに寝る意味知ってんのか…?)
(落ち着く温もりだ…この人と会えて、よかった…)
(まぁ…たまには悪かねぇな……)


「おい、起きろ…そろそろ出るぞ…おい…」
「………ん…………」
「狩りの時間だ…行くぞ。」
「……はい……ふぁぁ……」

起こされて外を見れば、まだ日は昇っていなかった。
眠気なまこで支度をして、彼の後を着いていく。
地図通りに進んでいけば、彼らのアジトらしき場所にたどり着いた。
見張りと思われる人達が、酒を飲んだまま外で寝ている。
鉄扉を入口とした籠城のような場所へどうやって入るのだろう。

「ここなら、見つかることもないだろう。」
「傭兵さん…今から本当にするんですね…」
「どうした?気迷いか?」
「いいえ……どうか、お気をつけて。」
「…!……おう、すぐに終わらせてやるよ。」

高い建物…3階まで上がってきたところで、待機させられる。
彼は朽ちかけた建物の窓だったところから飛び降りた。
その事に驚いて、慌てて下を見れば軽やかに着地していた。
そして、腕を振りかぶると大きな歯車が現れ、見張り諸共巻き添えにして鉄扉を破壊した。
盛大な音と土煙が舞う。
次に姿が見えた時には、どこから出したのか分からないほど大きな鎌を手にしていた。
そして、アジトの中へと突入していった。
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