忠誠
なんて乱暴なんだろう。
信じられない光景ばかりに唖然と立ち尽くすことしかできなかった。
アジトの中で悲鳴がわきおこり、外へと流れ出した。
さっきまで壁に寄りかかって外で寝ていた見張り達は、歯車に体を抉られていた。
ちぎれた腕から血海ができている。
残忍すぎる光景に声が出なくなり、思わず釘付けになる。
暫くすると悲鳴が鳴り止んでいることに気づいた。
靴音を響かせながら傭兵さんが現れた。
もう終わったの…?
上を見上げて私が目に入ると、大きく飛び上がって、隣に降り立った。
鎌は手に持っていない。
だけど、頬に少し血がついているのを見て、怖くなった。
カタカタと震えることしかできない私に、ため息をつく。

「…ちょっと怖かったな、すまん。」
「……、……っ…」
「大丈夫だ…あぁ、もうアジトは死んだ。見る必要もねぇな?」
「…、………!」
「落ち着け……大丈夫だ…あれが奴らの罪の重ささ。」
(……ちょっとばかし、やりすぎたか…)

声をかけて宥めても、なかなか恐怖が収まらないらしい。
少し息遣いも怪しくなっている。
早くここから立ち去らねば、誰かに見つかっちまうかもしれん…
マントを外して包んでやりながら抱える。
女の体ってのは軽いな…
間違えたらどこかへ飛んでいきそうな感覚に襲われながらも宿へと走り戻った。


「……落ち着いたか。」
「…………」
「もうお前を苦しめる存在はいない…お前は自由だ。」
「傭兵さ…っ…」
「なぁ、お前のその自由を…俺が縛ってもいいか…?」
「……ど…いう…こと……ですか…」
「……俺の女になれ…」
「……!!!…それは…憐れみ?…なら、私は…」
「いいや…お前が欲しくなった……好きだ。」
「ど、どうして…?!分からないです、何で、私を。」
「敢えて言うならその心を気に入った、と言えば良いか?」
「……っ!」

急に好きだと言われ、近すぎる距離にたじろぐ。
頭が軽くパニックになっている間に、唇に別の感触が訪れた。
………
キス、されてる…?!
初キスは…好きな人と……するつもり…だったのに…
それにくすぐったい。
唇の窪みを舌でこじ開けようとしている…?
くすぐったさに負けて、少し力を緩めると口の中にぬるりと舌が入ってきた。
驚きに声が出て逃げようとしたが、腰と頭に手を回されていて動けない。
押しのけようとした手から力がだんだん抜けていく。
初めて…なのに……何も言えないまま…こんなこと…っ!
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