濃厚な愛(VD)
本日はバレンタインデー。
通常は男女関係なく、大切な人に贈り物を渡す日だ。
最近は商売色が強くなり、贈り物を渡すのが好きな女性をターゲットにお菓子を強く売りに出る傾向が強い。
私は今年も変わらず、君へのプレゼントを用意している。
今日は外巡回が割り当てられ、部下の指揮をしながら、警備にあたる。
洋菓子店はどこもバレンタインデー用のお菓子の最終売り出しに躍起だ。
食材店では手作りお菓子用の材料特売。
心做しか街中、甘い匂いが漂っている雰囲気だ。
ショーケースが気になりながらも、巡回を続けていると、パタパタと数人の駆け足が聞こえた。
前方から3人手を繋いで、私の前で立ち止まった。

「どうかされましたか?」

「え、えっと…」
「言って、言って…!」
「あ、あの!こ、これ!!」


緊張した面持ちで言い出しを押し付け合いながら、一人が子箱を勢いよく差し出すと後の二人も続いた。
ふぅ…っと気づかれない程度に息を吐く。

「申し訳ありません、お気持ちはありがたいのですが…今は職務中なので受け取ることは出来ません。」

「え……」

「これは規則ですので…プライベート時間になってからお渡しに来てくださいませんか?」

「あ、は、はい!もちろん!!何時頃にどこで会えるとか、教えてもらえれば…!」

「あぁ、それが…退勤時間も日によって変わりますので、何とも申せません…ですが、明後日が休日なので、その日に私を探していただけませんか。」

「分かりました!探しに行きます!!」


軽くお辞儀をしてその場を立ち去る。
とは言っても、私は受け取る気など全くない。
しかし、嘘は言っていない。
勤務時間中に個人的な贈答品は、賄賂に相当する。
どんな物であろうと受け取ることは出来ない。
休日も明後日だが……出かける予定は今のところない。
それにデート以外で外出することもない…


本日も何事もなく退勤時間を迎えた。
城の戸締りの見回りをし、連絡通路の扉前で君と落ち合う。

「今日もお疲れ様。」
「今日もありがとう。」

最後に連絡通路の鍵をかければ、戸締り完了だ。
自然とお互いに手を絡め合い握る。
何か話すわけでもなく、連絡通路を歩き自室へ戻ってきた。

「今日はバレンタインだよね。」

「あぁ、そうだな、巡回中に色々声をかけられたが、全て断ってしまった…」

「真面目だね、私からのお菓子も断っちゃう?」

「そんなわけないだろう!君は私の補佐だ、例え勤務時間中であろうと君からの差し入れはただの気遣いになるっ。」

「ふふ、タウは私にはすっごく甘々だね〜……ラッピングしてないそのままの物でちょっと申し訳ないけど、これ受け取って?」

「おお…ホールケーキか…?チョコのいい匂いがする…」

「ガトーショコラだよ、くるみも入れてみたの。しっとり濃厚めに作ってみたつもりだけど…どうぞ。」

フォークを入れると、ふわりと切れ込みが入る。
一口大を刺し、口に運ぶ。
口に入れただけで、チョコの濃厚な香りが広がり…噛めばくるみの香ばしい味わいがほんのりアクセントになり、濃厚なチョコの味わいをじっくりと味わえる。


「うまい…さすがだな…」

「ありがと、私も一口…はむ……ん、思った通りに出来てるっ…良かったぁ。」

「私からのプレゼントも受け取ってほしい…」

「ん…これは……」

「シュシュとスカーフのペアだ。スカーフであれば、付けられるだろう?」

「うん、わ…可愛いデザインだね…!ありがとう!」

君にはフリルがよく似合う。
パステルカラーな青色のスカーフと同じ柄のシュシュを明日から付けてもらう事にした。
そうすれば…君を私の愛で包んであげられているような…一種の自己満足を得られる。

「ふふ、ここに…タウの匂いをつければ…」

「なかなか大胆な発想だな…」

「へ…?あ、そ、そうかな…?」

「照れなくて大丈夫だ…離れていても私が感じられるように、匂いをたくさんお裾分けしてやるぞ。」
3/3
prev  next