心の影
「今日のお悩みは何だろう、気になって仕方ないのになぁ。」
「……ふぅ……昨日、ミコが本を見ていたな。」
「本、それってどんな本なんだろう。」
「それがウェディングドレスのカタログだったな。着たいのか聞いてもはぐらかされてしまった…」
「ドレスかぁ、僕も見てみたいなぁ。」

空へと独り言のように呟く声に答えていく。
王と近侍。
その関係はここでは関係ない。
友として頼り、悩みや思いを吐き出す時間。

「着てみたいのか、と聞いたがそうではないと。ですが、名残惜しく眺める姿が気になってしまい…」
「なるほどね…ドレス……」
「………」
「君はドレスにどんな意味を持っていると思う?」
「……女性の憧れの逸品であり、穢れなき存在である証だと…」
「うーん、それは『一般的な見解』だよね。人それぞれ、様々な物にたくさんの想いを重ねていると僕は思ってる。だから、ミコも憧れ以外の気持ちを持っているのかもしれないね。」
「憧れ以外の…気持ち……」
「まあ僕の想像でしかないけどね。」

もしもシュネル様の仰る通りに、憧れ以外に見ていたのだとしたら…
あのドレスに一体どんな意味が生まれるだろうか。
寂しそうに見えた顔が忘れられない。

「あっ、僕が先にミコに聞いちゃおうかな?」
「…!!そ、それは…」
「冗談だよ!解決すると良いね。」
「申し訳ありません…このような私事で…」
「良いんだよ!むしろ君ら二人の関係の方が気になって仕方ない位だからね。さて、そろそろ戻ろうか、もうすぐで訪問の予定時間だ。」

シュネル様のお言葉で、何かが見えたような。
しかしまだそれはハッキリと見えないまま。
王座へと戻り、訪問者を迎える。
霞んでいた答えもいつの間にか姿を消していた。
気がついた時には、また何やら物思いにふける小さな背中。
君から直接その気持ちが聞けたのなら…

「どうかしたか…?」
「ん……ううん、何でもないよ。疲れたなぁって…」
「そうか…マッサージしてあげよう、ほら、寝転んで。」
「ありがとう…」

聞いてもやはり教えてはくれない。
はにかみながら寝転んだ背中に指を押し当てる。
強くなりすぎないように…
小さな体で仕事をこなしきった労いを。
君がドレスを着て、隣に立つ日はいつだろう。
もしかしたら、一生訪れないまま終わってしまうかもしれない。
二人だけで静かに迎えるかもしれない。
どんな時間になるのだろう?
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