出会って
龍の谷には私よりエライ人がたくさんいるらしい。
お母さんよりもお父さんよりもとてもエライ人はいっぱいいるって。
ここのエライ人は、つまり強い人らしい。
なら、お母さんも強いし、お父さんも力持ち。
だけどもっと強い人ばかり…?
この谷には一番強い人がいて、その人の名前を『モルテリクス』って言うんだ。
呼ぶ時は「サマ」をつけなさいと言われたけど、お家だしその人にも聞こえないから良いじゃん。
強い人の方が良い暮らしが出来るの?
なら、私がお母さんとお父さんより強くなって、良い暮らしが出来るようにしてあげるね!


「モルテリクス様…か…」
「奴の名前など出してどうしたのじゃ…」
「アレンシノクス様は、モルテリクス様にお会いした事はありますか?」
「ある事にはある…」
「どんな方なのですか?」
「どんな奴と言われてものう…気に入らん奴は殺す、それだけの奴じゃ。」
「へぇ……」
「むむ……奴の名前を聞くと、虫唾が走る!休憩は終わりじゃ!復習するぞミコ!」
「えぇっ!?もう少し休みたかった…」

気に入らなければ殺す。
そうすれば、この谷一番の龍になれるのだろうか?
ただ、この目で一度彼の姿を見てみたい。
どんな人が王座に君臨しているのか、谷の住人として興味がある。
アレンシノクス様はお強いのに、私の弟子入りを小言を漏らしつつも受け入れてくれた。
面倒見が良いというか、放っておけない性分なのだろう。
激しい拳舞に初めは一撃も耐えられなかったが、今では返しを打てる程になった。
でもまだまだ力は足りない。
もっと、もーっと強くならなきゃ。

「そうじゃな…奴を見てみたいか?」
「え…はい!一度はぜひとも。」
「それは何でじゃ?奴の前に立った、それだけで潰される事だってある。」
「で、でも…いずれはこの谷で一番の龍になりたいですから。」
「その前に倒すべき相手を見物とな?やめておけ…」
「それもありますけど…多くの人が崇拝する龍に興味があるんです。」
「妾には奴を崇める理由が分からんが…まぁ良いじゃろ…顔を見るだけであろう?」
「見れたらそれだけでもう充分です…」
「ならば…明日、妾と一緒に奴の顔を見に行ってみるか?」
「…!!良いのですか?!」
「あぁ、構わぬ。妾はどうやら奴の友人枠に嵌められているらしいからの。見るだけなら奴も何も思わんじゃろ。」

突然のアレンシノクス様のお言葉に、気分が舞い上がる。
明日に、早くもモルテリクス様を見ることができる!
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