この目で
この時間なら確実にいるという時刻に、稽古場へと向かった。
ワクワクしている私を見て、呆れ顔をされたが、楽しみで仕方ないのだ。
ここからモルテリクス様のいる山の中枢までは、かなりの距離がある。
本来のお姿になったアレンシノクス様に、直接案内してもらう事になった。
家がある場所よりもう少し寒く、山肌も荒れている場所へと向かっていく。
彼はどんな龍なのだろうか…
万夫不当とも言われるのだから、ムキムキで…強面で…オーラも凄いんだろうな…
と、考えているうちに到着した様子。

「必ず妾の後ろにおるんじゃぞ?」
「はい!」
「では、参るぞ…不要に喋るのも厳禁だ。」

神殿のような場所へとやって来て緊張が高まる。
足音が響き、水が滴り落ちる洞窟。
背が前より低くなってしまったアレンシノクス様の腕を掴みながら進む。

「おや?アレンシノクスではないか……うむ、そやつは新たな無謀者か?」
「こやつはぬしの顔を見に来ただけじゃ。その内、主を倒して君臨するためにな。」
「ほう…?面白い…よく顔を見せてみろ。」

青みのある緑髪が毛先に向かって淡い色になっており…
背が高く、スラリとした手足。
無気力な翡翠の眼差しがすぐ傍で光る。

「ふむ、名を聞いておこうか?」
「なぬっ!今聞いて果たして覚えておられるのか?!」
「アレンシノクスのチビなのだから、断然覚えていられるはずだ。」

体を包み込むように響く低音の声。
抑揚があまりないが、吸い込まれるように声が耳に届く。

「わ…わたし……」
「ん…?」
「私をあなたのお嫁様にしていただけませんか…!?」
「なんじゃとぉ!!!??」
「………」
「…いえ…やはりそうなる為にも強くならねばいけませんね…」
「……フクク……クハハ…!!初めてだ!その様な事を言う者は!」
「…?」
「我の妻になりたいと?どんな女も言わなかった言葉をこんな幼子に言われるとはな?」
「気でも狂ったか?!」
「い、いえ!私は凄く本気です…これは一目惚れという物です…!」
「フフ…退屈しのぎにはなりそうだ…良いだろう、機会を与えてやろう。」
「…!!本当ですか?!」
「我を疑うか?そなたの言葉が真であるならば、毎日ここへ来い。今度からは我が稽古についてやろう。」
「な…なんじゃと……この子はまだ飛ぶことも慣れてないというのに…」
「アレンシノクス、そなたも来て良いのだぞ?」
「何?ならば、必ずついてやらねばならん!主のような龍、可愛い子にでも何をするかわからぬからな!」
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