手を掴んで
夢のような言葉に意識はもう、どこかへと飛んでしまっていた。
夢現のまま、気がつけばいつもの稽古場へと帰ってきていた。
アレンシノクス様が、頭を抱えてうずくまっている。

「アレンシノクス様?」
「あぁ…やっと目が覚めたか…お主……一体どうしたのじゃ……」
「あ、あのですね…あの人を見て、凄く胸がドキドキしたんです!」
「それは緊張によるものでは…」
「それで、近づいてきた時、もしかしたら触られるかもと思うと、顔を見れなくて…!」
「…ふむ…」
「そして、私思ったんです。あの素敵な体、声、仕草を独り占めしたいって。」
「ううむ……」
「お母さんやお父さんの言う『好き』なのかは分からないですけど…モルテリクス様と一緒に過ごしてみたいって思ったんです!」
「……そうか…」

目を輝かせながら語る姿に頭が痛む。
ミコはまだ本当の奴の姿を知らぬから、そんな事を言えるのじゃ…
今日だって妾がいたから、突然の大声も突拍子な事にも笑って済ませてもらえた…
あれがこの子一人だったら……恐ろしい。
しかし、約束してしまった以上仕方がない。
妾が責任を持って連れていき、監督せねばならぬ。


「モルテリクス様、よろしくお願いします。」
「あぁ、我の事はモルトで良い。それで?そなたの名は?」
「私はミコと申します。では、モルト様とお呼びしますね。」
「ミコか、では、さっそく。」
「…!?」
「さて、我の膝の上に乗る感想はどうだ?」

口角の上がった顔が目の前にある。
一気に顔が熱くなるのを感じる。
…いい匂いがする。
落ちないように回された手は温かくて、とても気持ちいい。

「すごく…落ち着きます…」
「……ふむ、そうか。」
「ななな……ほんに心臓に悪い…」
「髪がとてもキレイ…モルト様の手、温かいですね…」
「なるほどな……どうやら勘違いではなさそうだ。」
「ほ、本当に怖くないのか…?」
「…ミコ……」

呼ばれて視線を顔へ向けると、瞳を少し閉ざしたまま顔が近づく。
も、もしかしてチュー…!?
そ、そんなの恥ずかしい!けど、嬉しい…!
目を閉じて、ドキドキしたまま待つ。
………

「ふむ…これは困ったな…」
「へ……」
「我は伴侶を持つつもりはない。」
「…………」
「だが、我の相手になるように仕上げるのは、悪くないと思っているぞ?」
「やっぱり強くないと、見向きもされないんですね…」

弄ばれた事が悲しくて堪らない。
…まだ初日、心を折るには早すぎる。
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