目にした光景は
モルト様の下で修行を始めて、早三年。
練習科目を伝えて、後は放ったらかしな日も何日かあった。
けど、絶対に日が暮れたら迎えに来てくださるし、力量も把握されている。
決して無理なものではなく、しかしキツイ修行の日々だった。

「我を倒したいのであったな。」
「…はい、元はそのつもりでしたけど…」
「我の腕を見たことはあるか?」
「ごめんなさい…一度も見た事がありません…」
「ハハハッ!まぁ良い、今日の鍛錬は休みだ。我に付き合え。」
「は、はい…!」

モルト様とお出かけできるなんて…!
スタスタと歩いていくモルト様に早足でついて行く。
モルト様は他の大人の龍よりも大きいからか、歩幅も私の何倍もある。
でもモルト様に甘えるのはだめ。
モルト様は自分に何かを言われるのが、あまり好きじゃない事を知った。
騒がしい事、面倒なこと、面白くないこと、触られること。
不快に思われる度に、あの太い尾が地面を叩きつけていた。
その力が凄まじいもので、何度も肝が冷えた。

「噂は本当だったんですね!モルテリクス様!」
「まさか、モルテリクス様に幼い女弟子が出来るとは誰も思わなかっただろうな。」
「モルテリクス様も落ちぶれたものだなぁ!!」
「何だ、貴様らは?邪魔だ、どけ。」
「ヘヘヘッ!モルテリクス様とは一度は手合わせ願いたかったが、今なら刃向かうのも容易いな!」
「…我と殺り合うか?ならば戯言を最後まで言うと良い。」
「ハッ!まだ自分が最強ってお考えですか?甘っちょろいなぁ!今じゃ誰もがモルテリクスの時代はお」
「…!!!」
「ふ…予見すらも出来ん雑魚が。それで?そこのお前は?」
「い、いえ…私めは女弟子の姿を見たかっただけで…」
「ミコ、あいつと戦え。」
「えっ!あ、は、はい…分かりました。」

目の前で槍で弾き飛んだ死骸が目に残っている。
顔面真っ青になった隣の龍と戦うよう指示されて、動揺が治まらない。
実践は初めてだ…
ここで死ぬわけにはいかない。

「お前、こやつの相手位はしてやれるな?」
「も、勿論ですとも!モルテリクス様の弟子と言えど子龍、楽勝です!」
「では、頼んだぞ。」

相手はもう戦う姿勢をとっている。
私も構えの姿勢をとる。
今までずっと体力ばかり鍛えられた。
勝てるかどうかは自信がない。
けど、全力でやってモルト様の期待通りの結果になるようにしないと!
指で先攻するよう煽られる。
思いきって踏ん張り、殴りかかった。
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