近づく歩
ふむ、少々辛いところか?
持久力ばかり高めたおかげで、長期戦に耐えられている。
が、決定的な一打を出せていないままだ。
激しく息を切らしている。
そろそろ打撃を受け止める余力もないようだ。
じりじりと後ろへ押しだされている。
そろそろ止めてやるべきか。

「やはり、まだまだ子龍の域を出ないな。」
「はぁ…っ…はー…っ……まだ…やれます…っ。」
「本当に元気だな!そろそろ終わらせてやる。」
「…!!」

力強く握られる指。
私も密かに手に力を入れる。
腕は折れるかもしれない、けど、少しでも刃向かう勇気を!!

「ハァァ"ッッ!!!!!!!」
「だぁッッッ!!!!!!!」
「…ほぉ…」
「ぃ"ッッッ………ぐぅ"…ッッッ…」
「……は………?」

殴られた腕の衝撃が広がって、硬い芯がなくなっていく。
不気味な音を鳴らしながら骨が折れた。
しかし、私の手も相手の顔を殴っている。

「……この……子龍如きが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!調子に乗りおって!!!!!!!」
「…ッッ…!」
(痛みがすごくて…耐えることすらできない…!痛い…私…ここで死ぬんだ…)
「お前など足元にも及ばぬわ!!!!!!!」
「もう良い、十分にやりきった。」
「…!!!モルト様…」
「モ、モルテリクス様…!?何のおつもりで!」
「貴様、こやつを殺す気か?雑魚程自身より弱い者にすぐ付け上がるな。」
「グアァァッッッ───!!!!!!!」

私に振り下ろされようとした拳を手で掴み、そのまま投げ飛ばした。
あの人も…もしかしたら…

「骨が折れたか?」
「いたい……いたいです…っ…」
「泣くな。暫くは扱く事も出来ぬな…」
「ごめんなさいっ…ごめんなさい…!」
「ミコ、お前は我の見立てより見事な粘りを見せた。褒めてやろう、何をされたい?」
「ほんとですか…!ありがとうございます…ッッ…あ、あたまを…なでてほしいです…」
「よくやったな、ミコ。」

モルト様の大きな手がぐしゃぐしゃと、髪を乱すように頭を撫でる。
修行開始日以来のモルト様の温もりだ…
少しでも長く感じていたくて、手に擦り寄ろうとしたけど、離れてしまった。
温もりがなくなるとまた、じくじくと腕が痛みだした。
痛みで涙が止まらない。
折れた腕を抱いているように言われると、体を持ち上げられた。
こ、これって…お姫様抱っこだ…!!
動けない私をこうやって抱えてくださるなんて…!!
嬉しくて頬が緩んでいく。

「…泣きながら笑うとは、器用だな。」
「だって…嬉しくて…っ。」
「置いていく訳にもいかないからな。今日の目的は先程達成された、帰るぞ。」
「え…?」
「そなたを誰かと手合わせさせようと思っていたのだ。まぁ、腕を折るまで粘ろうとは思いもしなかったが。」
「そうだったんですね…」
「少しは気に入ったぞ。骨が治れば今度は打撃の鍛錬だな。」
「もっともっと頑張りますっ。」

腕の中で笑う顔が、やりきったという清々しさを伴っている。
この重さも心地よく感じる。
案外、この短期間でこの娘を気に入ったらしい。
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