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静かに「頑張ってね」と見送ってくれる彼女。
相手に集中し、感覚が研ぎ澄まされる。
相手は貴族…平民の私など叩きのめせと言う声も聞こえていた。
それが今はもうほとんど聞こえない。
ガッシリとした大きな図体をどっしりと構えた相手に、こちらから動く。
近づけば両手剣を持つ手に力が入る。
下段の構えから一気に振り上げる軌跡をしっかり受け止められた。
……私の剣を折るつもりだ。
確かに、この細身の剣なら太い両手剣で折るのが手っ取り早い。
でもそうは…させないぞッ!
抑え込まれるのを流し受け、一旦身を引く。
すると今度は相手から間合いを詰めてきた。
それを受けるのではなく攻めてみせた。
咄嗟に攻撃の構えから受け身の形を取る。
一歩踏み込んで下から振り上げるのではなく、一直に眉間へと突きを出す。
2m位はあるだろう巨体にはさすがに届かない。
だが、審判の旗が上がる。

「一手あり!勝者、タイウィン!」
「なぬぅっ?!」

技を取れてほっとした。
これで判定を貰えなかったらどうしようかと思った。
観客席からはどよめきが聞こえる。
相手は不満ばかり口にして負けを認めない。
怒りに震え、私を睨んだかと思うと拳を構え振り下ろしてきた。

「やめたまえ!」

真正面から空気を貫く声。
レファンドス国王シュネル様が厳しい目線で相手を見ていた。
巨男は顔が青ざめていく。
そうしてやっと退場していった。
最後にまたもや不満気にこちらを見やったが、この闘技中に問題を起こせば地位は転落する。
だから手を出されることはないと思うのだけど…


「タウ!さっきの人凄く怒ってたけど大丈夫…?」
「大丈夫だよ、それよりさっきの試合も見ててくれた?」
「う、うんっ!もちろん!やっぱりタウは強いなぁ。」
「ありがとう、これであとは準決勝で決勝か…」
「うーん……あっ、鉄球の人と…槍の人もまだいるよ!二刀流の人は次だね、見に行こ!」
「ふふ、楽しそうだね。」
「へ……あ、う…つい…」

目を輝かせながら一生懸命にトーナメント表を見る姿が愛おしく感じる。
手を引っ張られ、駆け足で観客席へと連れて行かれる。
二刀流か……剣一本で戦うのと、どちらが良いんだろうか…
二本のダガーナイフを逆手持ちした。
あれは…シーフの構え!

「なんだか不気味な人だね…」
「………」

もしかしたら…いや、考えすぎかもしれないが……
暗殺者…のようにも見える。
依頼されていなくても、そういう職柄の人までエントリーするこの闘技は強者だらけなのだと実感する。
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