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準決勝、相手は例の二刀流野郎。
闘技の場へと歩を進めば、昨日とは違い歓声があがる。

「有望な平民の青年ー!きばってけよォオォ!!」
「キャー!イケメンくーん!頑張ってねぇー!」

相手も入場すれば歓声がどっと湧き混じる。
野太い声から女の人の甲高い声まで、観客席は様々な声で溢れかえる。
その中でもはっきりと聞き取れた彼女の声援。

「タイウィーンッッ!!!!!勝って帰ってきてねー!!」

あぁ、必ず勝つよ。
審判の合図が下りる。
その瞬間に相手は素早い身のこなしで間合いを詰める。
取り敢えず盾を構えて相手の出方を窺う。
頭上から振り下ろされるナイフに直感で、防げないと判断して間合いを取る。
そして広い戦場を駆ける。
素早い相手は瞬時に追いかけてくる。
並走した相手は走りながらも狙いを定めて、攻撃を仕掛けてきた。
ぐっと足に力を入れて踏み止まる私に驚く相手。
勝つにはこれしかない…ッ!

「タア"ァッッッ!!!!!」
「っ…?!うぉあぁっっ!!」

両手で勢いよく振り上げれば、剣圧で砂が撒き上がる。
そして全疾走の余韻で滑る相手に直撃し、吹き飛んだ。
樋を面に振り上げたから斬撃波は起こらずに済んで、安心した。
吹き飛ばされた相手は大の字になったまま動かない。
審判が駆け寄れば、戦意消失と見なし勝利の旗が上がった。
どうやら気絶してしまったらしい…
静まっていた観客席が派手に盛り上がって、地響きが伝わってくる程だ。
黄色い声に指笛…皆、私の実力を認めてくれている…
不思議な感覚に浮かされながらも戻る。

「タウー!とっても…とーってもかっこよかったよー!」
「……ミコ…」

両手を握って満面の笑みで出迎えてくれた。
このまま次に勝ってしまえば、守護騎士と言う名誉ある地位を授かる。
そうすれば今までの暮らしは崩れ壊れてしまう。

「タウ…?どうしたの?」
「………」
「……決勝は明日だから、宿に戻って休もう?」


勝って帰ってきたのに全く嬉しくなさそうな表情。
試合中に何か言われたのかな…
黙ったまま項垂れて床を見て動かない。
私は静かに待つしかない。
そうだ、今日も寒いし温かい飲み物でも用意してあげよう…
体を温めたら気持ちも和らぐだろうし…
そう思って鍋に水を入れて湯を沸かす。
温められる水を眺めて待っていると、後ろから抱きしめられた。

「タ…タウ…っ…?」
「………」

胸の下に回った腕で背中に温もりを感じる。
少しだけ大きい背丈に頭を肩に乗せられた。
とてもドキドキする、緊張してうまく言葉が出ない。
フツフツと湧き始めた音に意識が戻り、火を消す。

「…ミコ、やっぱり明日出ない…」
「…!」
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