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ぽそりと呟いた言葉は棄権する意思だった。
どうして…?今まで勝って帰ってきた時はあんなにも喜んでて…

「…次、勝ってしまったら守護騎士になるんだろ…?…かと言ってやる気のない奴と戦うなんて相手も嫌だろ?」
「だから放棄するの…?そんなのタウらしくないよ…」
「…………」
「何かあったの…?」
「……離れたくない…」
「…!!?」

胸が高鳴る。
でも、あんなに頑張って鍛錬していたのに、そんな事でやめてほしくない。
全力で戦い抜いてほしい。
じゃなきゃ、私は受け入れない。

「タウ、諦めるなら私は帰る。」
「…、…」
「私だって寂しいよ…でも、騎士になるっていう夢は叶えてほしいの。」
「………」
「ね、戦い抜く最後の瞬間まで応援するって約束したでしょ?だから…タウも最後まで戦い抜いて…?」
「………すまない…そうだね、ミコにここまで付き合ってもらったのに……」
「幼馴染だもん。」
「…、…そう、だな。うん…明日も精一杯頑張るから応援してほしい。」
「うん、ずっと見てる…」


決勝当日。
弱音を吐いていたとは思えない程、強気の姿勢を見せる。
相手は槍使い、鉄球の人を押しのけてきたようだ。
射程が圧倒的に長い槍。
鋭利な穂先が日に照らされて、ギラギラと光る。
試合開始の合図が出ると早速槍の猛攻撃が始まる。
盾と剣で弾きながらどうにか逆転する機会を窺っている。
防御をすり抜けた穂先が左頬を掠めた。
次の一手を盾を押し出して思い切りぶつけ合った。
反動で互いに仰け反るのをぐっと前身を起こし、その勢いと共に剣を喉元に突き出した。

「技あり!よってタイウィンの勝利とする!」


月日が経つのはとても早かった。
近衛隊長としてシュネル様の隣に立つ為に、作法や戦術をひたすらに頭に詰め込んだ。
そしてやっと一人の騎士として立つことを許された頃には、あれから2年が経っていた。
正式に引き継ぐ式が行われ、晴れて近衛隊長となった。
シュネル様に祝いで一つだけ何でも願いを聞くと言われた。
その時真っ先に頭に浮かんだのは彼女の事だった。
君を守るためにここまで登りつめた。
ずっと傍で見守ってくれた私の想い人。
一番応援してくれて、一番喜んでくれたミコ…
あれからもう2年も経ってしまったけど、今から迎えに行くよ。

「シュネル様…私の故郷にいる幼馴染に補佐として支えてもらうことを、お許しいただきたい。」
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