ほんの隙
モルト様が戦いを避けるようになったのは、何も今回だけではない事を知っていた。
帰ってきたモルト様から血の臭いがしなくなったのに、気がついたのはいつだっただろう?
でも、あんなにも露骨にあしらっているとは知らなかった。
モルト様はもうその手を、血に染める事をやめてしまったのだろうか?
戦闘狂なモルト様が好き、というわけではないけれど…
モルト様自身が何か制約をかけているのならば、それはやめてほしい。
モルト様にはモルト様らしい生き方を。
あくまで私はそれを追いかける身なのだ。


「少しばかり遠出をする。大人しく待っているんだぞ。」
「はいっ、モルト様。お気をつけて。」
「体を腐らせたくないのならば、少し離れた所にモンスターの巣窟がある。そこへ知っている誰かと行け。」
「分かりました!モルト様の為にもサボらず鍛錬します!」
「ハハハッ、まだ諦めていなかったか。」
「モルト様がもう良いって言うまで、私は続けますよっ。」
「ほう、ならば言わずに放置すれば、面白い事になりそうだな。」

手を伸ばした先に、随分と触り慣れた頭が届く。
ぐしゃっとやってやるだけで、大層嬉しそうな顔をする。
その表情は、我にとって好物となった。
そなたといる時間は退屈でなく、良いものであったのだ。


「え…?そう、ですか…」
「暫くは付いてやれそうにないんだ。お前の気持ちも分かってはいるんだがな。」
「…じゃあ、場所だけ教えてもらえませんか?」
「一人で行くのか?後でモルト様に何と言われるか…」
「内緒にしてれば、大丈夫ですよ!中でじっとしてるのも寂しくて嫌なんですっ。」
「……分かった、くれぐれも気をつけるんだぞ。」

渋々と教えてもらえた場所に一人で向かう。
誰かと一緒に行きなさいって言われたけど、割と近いから迷子にはならない!
それに視界も拓けているから、目印さえ立てれば大丈夫!
さっそく侵入者として捉えて、襲いかかってくるモンスターを相手にする。
距離を置けば、深くまで追ってこないし、確かに鍛錬には良い相手かも。
休憩を挟みながら、日が沈みかけるまで相手をした。
動いていればモルト様がいない寂しさも忘れられて、いい運動にもなる。
二日、三日と通い…四日目、モルト様が戻ってくる日。
今日は昼までにしておかないと、お出迎えに間に合わなくなっちゃう。
そろそろ日が真上に昇ってきたから、帰らないといけないな。
寂しかった分、少し位構ってもらえると嬉しいな…!
10/12
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