与えられたのは
一息ついて、そろそろ戻ろうかと歩いている道中だった。
背後からいきなり肩を掴まれて、投げ飛ばされた。
訳が分からないまま、体を強く打ったせいで息が詰まる。

「見つけたぞ、小娘。あの時モルテリクス様の隣にいた子龍…」
「ゲホッ……あ、あなたは!後ろにいた…」
「お前のせいで…俺は!!下僕に笑われて赤っ恥をかいた!!」
「…!!」

あの後、拍子抜けした下僕が馬鹿にしてきたと。
そしてその話は広まり、集団に指を指されて笑われたと。
その苛立ちを私に向かって吐き出してくる。
倒れた私に馬乗りし、罵声と共に何度も殴り、頭を掴み打ち付けられる。
痛い、痛いよ…どうして私に…
今までにない恐怖に声が出ない。
頭を何度も地面に叩きつけられたせいで、思考が澱む。

「お前が…お前がッ!!モルテリクス様を誑かしたせいで!!!」
「…ッッ…!ハッッッ………ァッッ…!!!!」
「この悪龍め!!!俺達のモルテリクス様を返せ!!」
「ゥ"…ーー…ッッッッ…!!!!!」

首を締め付けられて、息ができない。
目の前に見える死に抗おうと、体を叩くが力は緩まない。
モルト様…ごめんなさい…約束を破ってごめんなさい…
もう一度…頭を撫でら……れたかっ……た──────


「遅いな。」
「申し訳ありません、モルト様!!」
「うるさい、謝罪する暇があるなら捜したらどうだ?」
「はいっっっ!!今、部下に捜索するよう申し付けております!!!」
「ミコ…何故一人で…」
「モッもるてりくすさまァァ!!」
「何だ?見つかったのか?」
「そ…それが……っ…」
「……!!!」

我の目の前に現れたのは、あの表情ではなく無様な姿だった。
何度も殴られた事により、瞼や唇から出血し、鼻は腫れ、涙を流した跡がまだ残っていた。
そして、首には締め付けられた痕があり、目は閉ざされていた。
抱えられていた体を受け取れば、ずしりと冷たい体が重く乗った。
もう息絶えていることは分かっていたが、手にした瞬間の重さは計り知れない。
そなたの目が我を捕らえることも、表情が変わることも、動くこともないのだな…
あまりにも静かな出迎えではないか…
こう言えば、そなたは嬉しそうな顔をしたのであろうな?
少しの間、離れて初めて分かった事だ。
我はそなたの事を大層気に入っていたらしい。
もう力で見図るような相手ではない、と。
我にとってそなたは唯一の存在になったのだぞ。
11/12
prev  next