違和感
分厚い本の隣で邪魔にならないように、いくつかの紙を取り出す。
午前中にお話しながら終わらせようと持ってきた、清書する前の地図の断片達。
偵察隊が乱雑ながらも細かく書いた線を、一つ一つ繋げていく。
裏に書かれた治安メモと共に色分けをして、今後の共同自治政策に活かすのだ。
シュネル様の願う体裁への第一歩となる地図制作を任され、若干緊張している。
興味深そうに覗き見るエダさんに地図の制作意図を話す。
…大きな共感を持ってもらえたようだ。
……今日は仕事もだけど、昨日の話を詳しく聞かせてもらおうと来たんだ。

「エダさん、エダさんは檻の中にいたってことですよね?」
「え?あ、は、はい…」
「そこをタイウィンさまが通って…声をかけたんですか?」
「あぁ…いえ…出口を探しているタイウィン様が私の存在に気づいて、近づいてきたんです。」
「なるほど…?もっとそのお話聞かせてほしいんです。エダさんがタイウィンさまと出会った時のお話…」
「良いですよ、あの時も私は檻の中で泣いていまして……」

檻に閉じこもっている中、何か情報を得ようと話を聞かれた…
エダさんが話すタウの言動は、本当にタウらしいものばかり。
だけど……

「監獄は地下の深い所ですから、外より寒い環境でした…そのせいか、あの方は身につけていたマントを私にお譲りしてくださったんです…」
「マントを…ですか?」
「はい…鍛えてなさそうなのに、薄着は寒いだろうからって。」
「…タイウィンさまは…優しいな…」
「昔からあのように気遣い深いお人だったのでしょうね…」

そう…タウはずっと、いつも優しかった。
でも………何でだろう…
心配するのも、やることも、全部タウらしいことなのに……
…ちょっと心がモヤモヤする。
エダさんのことがほんの少し嫌いになるこの気持ち…
ううん、どうして?仲良くなろうと思ってるのに?
その後は話がよく頭に入ってこなかった。
集中力が欠けた中、線だけは間違いなく書き込んでいく。

「そういえばミコ様はタイウィン様と同じ出身でしたよね?」
「ぇ…はい、生まれが近かったんです…」
「ならば、その…貴女もあの方もネズミや虫を…食べたことがあるのですか…?」
「へ…?な、何でその話…」
「あの監獄ではそれだけが生き残れる糧だったので…」
「……私もネズミはありますけど、虫はタイウィンさまだけ…です…」
「…!!」

そういえば、食べる物に凄く困ってしまった時でも、私には少しでも良いものを用意してくれてたな…
懐かしくも苦しい記憶だ…
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