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闘技まであとひと月となった。
最終仕上げを取り入れて、万全の体制を整える。

「寒くない?」
「あぁ、動いていたら暑い位だ。」
「そっか、でも体は冷やさないようにしなきゃね。そうそう、何か食べたいものある?」
「…そうだな………ん、今からひと狩りしてくる。」
「何を捕まえるの?」
「猪。鍋でも食わないか?」
「ん、分かった!味付けは甘辛煮で良い?」
「あぁ、材料はあるのか?」
「うん、この前キノコもたくさん採ったし、お野菜もいっぱい貰ってるよ!」
「なら大丈夫だな。よし、一緒に行くか?」
「うん!もちろん!」

体幹トレーニングを一旦終えて、汗を拭う。
同行を誘えば、嬉しそうに手を乗せる。
その笑顔に胸が圧迫されて苦しくなる。
このまま腰を抱いて、エスコートしてやりたい。
…踊りなんてお互い知らないのだが。


冬本番が近づく今は、冬眠前に養分を蓄えた動物が多くいる。
今日も丸々と太った猪と、それと熊を狩った。
俺より一回り大きい奴だったが、修行の成果があったというところか。
ソリに乗せて、家へと戻る。

「すごーい……やっぱり大きいね…この熊さん……」
「少し腕試しも兼ねていたんだが、案外あっさり倒せたもんだ。」
「凄いね!!タウがとっても強くなったってことだよね!」
「あぁ、まぁ、そうだな。」
「えへへ、もっと格好良くなっちゃったね。これなら闘技も優勝間違いなし!」

ミコは俺を褒める時、よく『格好良い』と言ってくれる。
そんな事を言われたら、本当に俺に気があると思って自惚れるだろ…
ミコもよく笑うから、もっと可愛くなっているぞ…
照れくさくて言えないが、毎日可愛くなっていく、ミコが堪らなく好きだ。


「いっぱい食べすぎちゃった…ふぅ…」
「ははは、俺も腹がちょっと苦しいかな。」
「えへへ、美味しいって食べてもらえて私は嬉しいよっ。」
「いつもありがとうな。」

毎日ミコの家で、向かい合って夕飯を食べる。
頬張る姿、咀嚼する様子、毎日見ていても飽きない。
片付けを二人でして、ソファの上で暫く談笑をする。
ミコの手が俺の髪を触る。
髪のことなど気にしていないせいで、元から長めだった髪は、この一年で脇下辺りまで伸びていた。

「あともうちょっとで本番かぁ…」
「寂しいか?」
「うーん、優勝してほしいけど、したら会えなくなっちゃうもんね…」
「そうだろうな、今まで通りではなくなるだろうし。」
「寂しくなるね……けど……こんなに強くて格好良いタウのことを、皆に知ってもらえるんだなって。」
「……」
「タウの髪が金色だからもあるけど、タウ自身がキラキラ輝いてるの。タウは私にとって素敵な騎士様、なの。」
「俺も…ミコは、ずっと俺だけの可愛いお姫様だ。」
「…!」

顔を赤くさせながら、いつもより凄い言葉を言うものだ。
俺もつられて、本音が出てしまう。
恥ずかしさで目を合わすことができない。

「…今日はもう…寝るか…」
「う、うん……遅くなったら寒くなるからね…」
「じゃ…おやすみ……また明日な…」
「うん…おやすみ……」
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