真似っ子
「他の人とこうやって鍛錬するのも楽しいですね…!」
「こちらこそ、我々の鍛錬に付き合っていただき、ありがとうございました!」
「少しは参考になると良いのですが…」
「大いに参考になりましたよ!指導も流石のものでした!貴重な体験…一生の宝です…!」
「そ、そんな……お願いしたらきっとまた参加出来ると思いますから!」
「今回は誠にありがとうございました…!我々は隊長殿が怖いので、口を噤んでおきます…」
「あはは…私も叱られそうかも…私達だけの内緒ですねっ。」

指を口元にあてて、控えめに微笑む補佐殿は荒れ地に咲く可憐な花のように美しい。
笑顔を我々に向けられているという時点で、大いに癒される…


はぁ…また暇になっちゃった…
でも勝手に鍛錬に参加してるのを見られたら、私も隊員さんもどんな結末になるのやら…
また姿見の前に立って自分をぼんやり見る。
と、背後に予備のマントが掛かっているのが目に入った。
ふふ、そうだ!
さっそくマントを手にとって、首元で縛る。
わぁ……大きい…裾引きずっちゃうけど、部屋の中だから大丈夫だよね…?
それから精霊の矢を一本手元に出して、篦を掴む。
それを剣に見立てて…

「…君の時代は終わりだ、悔しいかいっ?…僕はとても、楽しいッ!」

広い部屋のおかげで振り回すことが出来て、本当にとても楽しい!
エルバレンさまのような素早い突き、できるかな…
ヒュッ…ヒュヒュッ…ヒュ…
全然だめだ…できない…やっぱり凄いな…
今度は羽根に気をつけて…
腰から帯剣しているのをスッと素早く抜いて、構えの形!
…うーん…あまりかっこよくないや…
やっぱりタウの剣さばきが一番!
でも、タウの真似ももう少しやりたい!
えっと確か…

「キサマ如きに……このオレが負けるとでも思うのかっ!」

……ふふっ、ちゃんと帯剣できたっ。

「ほう?なかなかの手捌きじゃないか。」
「…っ…!?た、た、た、た、タイウィン…!!!!!いつの間に…」
「そうだな…何やら突きの練習をしている所も見たぞ。」
「ひぇ……」

エルバレンさまの真似っこをして、楽しくなってる間に帰ってきてたなんて…
今のを見られてたなんて恥ずかしすぎる!!

「お、おねがい…今のは見なかったことに…」
「ふむ?手本でも見せようか?」
「結構ですっ!!!」

とても悪戯っ子な顔をしていて、暫くの間は立ち直れそうにない。
幸いマントが大きいので、それにくるまってしまう。
穴が無ければ、丸まってしまえ!
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