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「と、言うわけで目眩ましと仕事もかねて、この皆本金吾をどうか椿亭でしばらく雇ってほしいんだ」
昼下がり、ここは椿亭の事務室。黒木屋の旦那に呼ばれたさくらと間宮は、頭を下げて頼む金吾を前にどうしたらよいか、お互いに視線をあわせていた。
「とりあえず、金吾さんは仕事で情報が必要なことと、何者かにつけられていることはわかりました。でも、椿亭で働くと目眩ましになるって・・・どういうことなのでしょうか?」
「どうやら、私をつけている者はなぜか椿亭に入れないらしいのです」
「私は働くのは構わないよ。ちょうど人手が足りなくてね、若い頼りのある者を探してたんだよ!」
亭主の間宮はすんなりと金吾のお願いを受け入れてしまった。さくらも、恩のある彼が誰かに狙われては心配だ、と頷いた。
「働く時はうちの作業着に着替えてもらうがいいかね?」
椿亭はなにも女中しかいないわけではない。男性が活躍する仕事だってたくさんある。一瞬女装を考えてしまった金吾だが、間宮のもってきた身軽そうな作業着をみてほっとした。
同行していた庄左ヱ門はよかったね、と金吾をみた。
「うん。僕をつけてる人はだれなのか・・・それを調べるためにも、椿亭の仕事もがんばりますので、よろしくお願いいたします。間宮亭主、さくらさん!」
そうして始まった、金吾の椿亭での生活。まさか本当に忍者の人が椿亭で働くことになるとは・・・さくらは少し前に聞いた椿亭で働くものに忍者がいるという噂を思い出す。
金吾はというと、とても働き者で親切だった。自分の仕事だけでなく、女中の手伝いもする。お陰で椿亭では彼のファンができるぐらい、信用をされていた。
そんなある日、さくらと金吾は間宮にあるお願いをされる。
「さくら、金吾くん、うちの食事処でだす茶菓子なんだが、今回は変わり種を考えてるんだ」
「変わり種・・・?どんなものです?」
間宮は小さな美しい彫刻の施された木箱をあける。香ばしい、なんとも言えない濃厚な甘い香りがした。そこには丸い焼き菓子のようなものがならんである。
「きれいですね。これは?」
「ビスコイトだよ」
あぁ、ビスコイト!とさくらの隣にいた金吾は言った。
「学生のころ、友人にもらったことがあります。南蛮のお茶菓子だとか」
「そうなんだよ。それが堺にある商人、福富屋にあるんだがね、少し遠くて悪いが二人で仕入れて来てほしいんだ」
堺といえば海があり、交易が栄える賑やかな町だ。ひそかに憧れていたさくらは二つ返事で返した。金吾は荷物持ち兼、彼女の身を守るためにもと、同行すると答えた。
「福富屋か・・・しんべヱがいるのかなあ」
金吾は懐かしい友の顔を思い出していた。
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