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つれてこられたのは誰もすんでいない空き家。どこかの店の倉庫になっているのか、さまざまな荷物が積んである。

「突然、申し訳ない。私は皆本武衛。金吾の父です」
「金吾さんのお父上?」

身分のある武士の身なりをし笠を深くかぶり、刀を下げている。声からして中年らしき男は金吾の父だった。
彼はその場に正座し申し訳ないとつぶやいた。さくらも正座で武衛と向かい合う。

「もしかして、金吾さんをつけてた人って、武衛様だったのですか?」
「はい。こんなことをあなたに言うのはお恥ずかしいですが…父として息子が心配で心配で…」

笠でよく見えないがきっと困った表情をしているのだろう。親として子を心配するのは当然のこと、おかしことではない…がなぜここまで黙ってつけてきたのだろうか。

「昔は甘えん坊で私のそばから離れなかったのに…今は私が子離れできずにいまして」
「金吾さん、忍者としても武士としてもご立派だとおもいます。私も助けていただきましたし…ご心配なさるお気持ちはわかりますが、大丈夫だと思いますよ」

「私よりもあなたの方が金吾をわかっていらっしゃるのですね…」

お恥ずかしい、と武衛はため息をついた。
すると遠くから勢いよく走ってくる者が現れる。金吾だ。彼はさくらと武衛をみるなり、倉庫の入り口の前で刀を抜いた。
辺りがざわつく。あっという間に人だかりができた。

「おい!彼女から離れるんだ。私が離れたすきに彼女を狙うなど、卑怯な手を…」
「金吾さん…これは!」

しかし武衛は黙ったまま刀に手をかける。金吾が刀を振るとカシャンと音を立てて太刀が交わった。
その構えに金吾はハッとする。距離を離し腰を低くして笠をめがけて切り込んだ。
笠が宙を舞う。露わになった見知った顔に、金吾は驚いた。

「父上!?」「金吾」

金吾はすぐさま刀を収めて父の傍へと寄る。すると人々もなーんだと口々に言い、何事もなかったようにばらけていった。さくらもほっと安心する。

「なぜ相模にいるはずの父が堺に?」「どうやら、つけてきた人は金吾さんのお父上だったみたいです」

さらに驚く金吾にすまん、とうなだれる武衛。

「でもなんで黙ってきたんですか?声をかけてもよかったのに」
「金吾、お前が一人で暮らしているか心配でな…。お前は男だろう?身の回りのこととかできているのか?」
「父上…、私はもう一人立ちしていますから!まぁ、できてるかと言われたら、微妙だけど」

それでな、と武衛は懐から1枚の紙を取り出した。それを金吾に渡す。彼はそれをしばらく見て、大きなため息をついた。
うんざり、とでも言いたそうな顔だ。

「また、見合いの話ですか…。私はまだ19歳です。家庭を持つつもりはありません」
「今すぐとは言わんでいい!安心させてほしいのだ。お前も武士の男なのだから」
「僕は本職は忍者なんだけど…」

どうやら込み入った話らしい。どうしようかと思っていると武衛がおもむろに彼女をみた。
なんだろう?と思っているとうんうんと頷いてあたかも察したかのように金吾の肩をたたく。

「そうか、心に決めた相手がいるのだな」「ちょっとまって父上。絶対なにか間違ってます」
「皆まで言わなくてよい。たしかにさくらさんはお前の事をよく見てくださっているし器量だっていい。文句はないぞ」

ぐしゃっと金吾は頬を赤らめ武衛がもっていた紙を潰した。言葉にできないのかう〜とうなっている。

「さくらさんは素敵なお方だけど、そういうんじゃないから!ほら!さくらさんもなにか言ってよ!」
「え〜っと…ありがとうございます?」「ほらみなさい。隠さなくてもよいぞ。なんだ、私の杞憂だったみたいだな。」
さくらはわけもわからず武衛と笑う。
「二人とも全然わかってない〜〜!!」

人々がにぎわう堺の町に、金吾のおおきな悲鳴がむなしく響き渡ったのだった。



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