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黒木屋の店主、庄左ヱ門は突然の来客に頭を悩ませていた。
それは今日の昼前、庄二郎と共に市へ食材を買いに来た時、得意先の小間物屋から笑顔で声をかけられた事から始まった。
「やぁ、黒木屋さん!今朝はありがとうございました。とても困っていたのであなたがいて助かりましたよ」
「はい?今朝・・・?今朝は私は自宅にいたような・・・」
「なにをおっしゃいますか。私が大量に注文した品を黒木屋さんが手伝って積んでくれたではありませんか!本当にありがとうございます!おかげで店をいつもの時間に開ける事ができました」
庄左ヱ門は弟の庄二郎と顔を見合わせる。お互いに記憶にない。その疑問を解消しないまま、小間物屋は去っていく。
そのあとは鍛冶屋、髪結い処、隣の民家、さまざまな人に助かったと身に覚えのない感謝をされる。
「これは、明らかにおかしい!きっと何者かが僕になって、何かしているとしか思えない!」
買い物を終え、自分の店に戻り庄左ヱ門は考えた。自分の悪評を流すのではなく、むしろ好感を与えている。なぜそんなことをするのか?自分の正体をしっているのだろうか・・・。
考え込んでいるとこんにちは、と声がした。庄二郎が表へ出ていき、すぐに悲鳴が聞こえた。
「庄二郎!?どうした!」
「に、兄さんが・・・兄さんが二人!」
「なにをいってるんだ?」
そういってやって来た顔を見て庄左ヱ門も驚いた。なんと相手は庄左ヱ門そのままの顔の男がいるではないか。が、しかし冷静な庄左ヱ門は狼狽えなかった。なぜなら相手に心当たりがあったからだ。
「・・・もしかして、鉢屋先輩ですか?」
恐る恐る聞く。庄左ヱ門の顔した男はにたりと笑った。
「・・・さすがだな庄左ヱ門。その通り!」
「やっぱり!僕のふりをして色んな人を騙してたのは鉢屋先輩ですね?」
「騙すなんて人聞き悪いなぁ。人助けしてただけだよ」
「お陰で色んな人から身に覚えのない感謝をされて混乱しました!」
庄左ヱ門の顔をしたまま笑う鉢屋先輩こと鉢屋三郎。彼は忍術学園の頃の先輩であり、今は城仕えで忍者として働いている。庄左ヱ門にとって信頼のできる先輩ではあるが、いたずら好きという一面には困っていた。
「いいじゃないか。嫌われるより」
「はぁ・・・。で、今日はなにかご用ですか?鉢屋先輩はここに来るということは、何かの仕事の途中では?」
その通り、と彼は勝手に黒木屋の中へと入っていく。それを止めず、庄二郎は囲炉裏で湯を沸かす準備を始めた。彼が来る度ここに長居するのはそこそこあることだ。
「ここの町に白浪神社があるだろ?」
「はい。最近人通りが多いところですね。確か、安産祈願やらでご夫婦がよく参られます。それに、今日はそこで小さな祭りがあるんです」
「そこの調査に来たんだよ。最近あそこには忍者宿が有名になって人も多くなっただろう?そこの近くの白浪神社が忍者の集会場所になってるとかなんとか」
「神社が忍者の集会場所に?」
「そのために妙な噂まで流してて、それがまた怪しいんだ。夜に白浪神社にいくと狐につれていかれるってね・・・迂闊に女性、子どもが入れないようにしてるんだ」
その新しい情報に、庄左ヱ門は不安を覚えた。椿亭の隣はその白浪神社がある。彼はすぐに忍者によく巻き込まれる一人の女の子を浮かべた。
「さくらさんが心配だ・・・」
庄左ヱ門は椿亭のある方向をみる。何か大変な目にあってないといいが。さらに今日はそこで夜に祭りが行われているのだから、彼女も行くのではないか・・・?
「庄左ヱ門?どうしたんだ?」
鉢屋の声も聞こえず、黙って庄左ヱ門はそっと表へでた。すると偶然、そのさくらが通りからこちらを見ていたのをみつけるのだった。
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