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夜、いつもなら人通りもなく虫の音が静かに鳴り響く椿亭だが、今夜は人々の声が響き、提灯の明かりが辺りを照らしていた。

白浪神社までの通り、出店が並び辺りには香ばしい香りがしていた。

「兄さん、さくらさん、はやくはやく」

そんな人通りの多い中、庄二郎の足取りは軽い。普段は大人しい庄二郎も、祭りの日に子どもらしくはしゃいでいた。

「庄二郎、転ばないようにね」

庄二郎が走っていると何人かの子ども達が現れた。彼らは庄二郎をみつけると手を振る。

「よ!庄二郎!今日は仕事休みなんだな」
「一緒に神社で遊ぼうよー」

いつも仕事の手伝いでなかなか遊べない庄二郎は久々にみた友人たちに笑顔を向けた。

「・・・兄さん、行ってきていい?」
「うん。帰るころに白浪神社の入り口で待っててくれ」
「はい!いってきます」

嬉しそうに走っていった庄二郎を見送る。しばらく二人の沈黙が続いた。

「庄二郎は僕の手伝いを優先してやってくれるんだ」

弟が人混みに紛れて消えていった方向を見ながら、ふと庄左ヱ門は静かに語る。

「父と母は、京の洛北にすんでいて、本店もそこにあるんだ。僕が忍者の仕事で別の所で店を出すっていったら、庄二郎がついていくっていって。まだ子どもだし、止めたんだけど言うこと聞かなかったんだ」

「だから黒木屋は二人で切り盛りしてるんですね。」

「もっと庄二郎に色んなことを知ってほしい。だから店の手伝いだけじゃなくて、友達と遊んだりしてほしいんだけど、やっぱり僕一人じゃ、店が回らないみたい。情けないけど、頼りっぱなしなんだ。だから今日みたいな日ぐらい、はめをはずしてほしいんだ」

明かりに照らされた庄左ヱ門の表情は、少し憂いがあった。女性であるさくらが言うのも変だが、彼の顔はきれいだなと思った。

通りを抜け、椿亭を通り過ぎるとより明るく照らされた白浪神社が見えた。いつもは小さな神社だが、集まって灯す提灯がぼうっと本殿を照らし、その陰影が存在感を放っていた。

「せっかく白浪神社にきたし、ちょっと並ぶけど、お参りしよっか」
「はい!なにお願いしようかなぁ」

狐の像から本殿まで、少し列ができている。その最後尾に二人は並ぶ。

「良縁のご利益があるから、商売繁盛にも繋がるかもね」
「それなら椿亭はむしろ恩恵を受けてる気がする・・・感謝を伝えよう・・・黒木屋さんは?」

何気なくそう聞いてしまったさくら。忘れていた昨日の出来事がよみがえる。そんなさくらをよそに、庄左ヱ門は真剣に考えている。

「僕、あんまりお願いごとってしたことないからなぁ・・・強いて言うなら・・・」

じっとさくらを見つめる庄左ヱ門。緊張しているさくらはどきどきしながら彼の願い事はなんだろうと待った。

「君が・・・」「わ、私が・・・?」

「変な忍者に巻き込まれませんように・・・とか?」

あはは、と庄左ヱ門は笑う。どうやらからかわれてしまったらしい。さくらは昨日のことがあったため、彼の言葉を聞いて胸を撫で下ろした。よかった昨日と違う。

「って、何ですかその願い事!」
「結構本気でそれにしようと思ってたんだけど、ダメかな?」
「私のことは大丈夫ですからご自身の願い事でお願いします!」

そういってお互いにくすりと笑い合う。いつの間にか参拝の順番が回ってきていた。



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