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参拝を終えた二人は改めて辺りを見回す。見せ物屋の笛が鳴り、屋台が並ぶ。まだ帰るのには早い。少し辺りを見て回ろう、と庄左ヱ門は言った。

「鉢屋先輩に報告もしなきゃいけないしね。というか、それが本題なんだから・・・」

最後の言葉はささやくようでさくらの耳には届かなかった。

「そこのカップルさん!見ていってごらん」

横からゆっくりとした声がかかる。二人が振り替えると一人の中年男性が、床に木箱を並べて何か小物を売っていた。それはよくみるとお守りだった。 

「白浪神社のご利益がついたお守りだよ。縁結びの願がかけられてるんだ。初々しい君たちにぴったりだよ」

「うっ、初々しい!?」

恋人と勘違いされてるのか。さくらは顔を赤らめたが提灯の光ではそれはわからなかった。庄左ヱ門は冷静にそのお守りを見ている。桃色に金色の糸で花が刺繍されている美しいお守りだった。

「では二つ、ください」
「はい、ありがとう」

そのまま庄左ヱ門が買ってしまう。
そしてさくらが考える間もないまま、彼は二つのうち一つをさくらに手渡した。

「はい。お守り」
「縁結びのお守りですよ?」
「でもお守りには違いないだろ?白浪神社っぽくていいんじゃないかな?」

妙な所でおおざっぱな庄左ヱ門。しかし、椿悟郎や間宮意外に男性からものをもらうのはこれがはじめてで、照れ臭さとほんのり心が暖かくなった。さくらはそのお守りを大事に握りしめる。

「ありがとうございます・・・。大切にしますね」

その笑顔を向けられた庄左ヱ門は少し戸惑って彼女の顔を見ていたが、首を小さく振って気を取り直した。

「うん。じゃなんか適当に食べていこう」

それから二人は屋台をまわり、曲芸をみて他愛ない話をした。庄左ヱ門はそれは仕事のひとつとおもいつつも、さくらと共にいる時間に、この町に来てから、久々に幸福感を感じていた。

「はぁ、なんかはしゃいじゃった。お祭りなんて久しぶりだったから」
「僕も。もういい大人になるのにな」
「黒木屋さんも?」

その問いにあぁ、と彼は黙りこむ。そしてにこりと笑って

「・・・庄左ヱ門」

庄左ヱ門が突然自分を指差し名乗った。

「どうしたんです?」「だから、呼び方。庄左ヱ門って呼んで」

彼は以前から感じていた感覚を、どう呼べばいいのか、わからずにいた。色んな感情が押してきて、一言では抑えきれない。でもこうして一緒にいてひとつだけわかったことがあった。

(彼女のことをお客様としてみていないんだ)

名前を呼んでもらう。それは庄左ヱ門なりの気持ちの表れだった。彼女が嫌だと言うなら、それまでだけど。でもそうなると庄左ヱ門はなぜか立ち直れないな、と思うのだった。

「え、と・・・しょ、庄左ヱ門さん」
「・・・さくらさん。今日は楽しかった。仕事としてじゃなくて素直に。僕といてくれて、ありがとう」
「い、いえ!!その、私も・・・」

楽しかったです、と言おうとして遠くから声が聞こえた。振り返ると庄二郎が駆け寄ってきている。

「兄さん、さくらさん。お待たせしました!」
「お帰り庄二郎。楽しかった?」
「うん」

庄二郎と庄左ヱ門が並ぶ。仲の良い二人にさくらは少し寂しさを感じた。

よくあることだ。こういうお祭りになるとたくさんの家族や兄弟、恋人が集まる。楽しく、幸せそうな様子に自分もそう思う反面、孤独を感じてしまう。辺りが暖かくなる程、自分のことを思いその孤独にひやりと冷たいなにかを感じずにはいられないのだ。

(だから普通はお祭りは避けてきたんだよね・・・)

そんな自分がどうしてお祭りに行く気になったのか。さくらは懐にしまった庄左ヱ門のくれたお守りを服越しにそっと触れる。

「さくらさん。椿亭までお送りします」

庄左ヱ門の言葉にはっとする。庄二郎が無邪気に彼女の手をとった。

「行きましょう。さくらさん!」

この兄弟との出会いも、町を見守る白浪の縁結びのお陰なのだろうか。庄二郎の手の引くままに、さくらは歩く。今は自分は一人ではないのだ。暖かい手のぬくもりをぎゅっと握り、さくらは椿亭へと家路を辿った。


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