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翌日、昼前の時間、何時ものように昼食の支度で釜に米をたく準備をしていたとき、年配の女中がさくらにそっと耳打ちしてきた。

「きてるわよ。いつもの彼」
「彼?ってどなたですか?」
「わかんないのかい?黒木屋の主人だよ!あんたを絶対呼ぶんだ。きっと気に入られてんだよ!」
「は、はぁ。いってきます」

彼がさくらを呼ぶ理由は決まっているのだが。それは言わず裏門の入り口へと急ぎ、黒木屋の所へ向かう。

「やぁ。来たよ」
「あ、ありがとうございます、えっと炭の置場所は・・・」
「あ、いいんだ。この台車の炭は別の所に渡すんだ」

何時ものように炭を移動させようとしてあ、そうか、とさくらは昨日の話を思い出す。

「では私が間宮様のところまでご案内します。お入りください」
「ありがとう」

炭を積んだ台車は広い場所へ一旦おき、黒木屋はさくらにつれられて間宮の部屋の前までやってきた。

「あとは大丈夫です」
「はい。では失礼しますね」

「さくらさん」
「?」
「例のこと、頼むよ」
「・・・はい」

黒木屋の旦那、黒木庄左ヱ門は彼女が去ったのを確認してそっとふすま越しに声をかける。

「間宮さま、黒木屋の店主の黒木庄左ヱ門です」
「おお、黒木様ですか!いつもお世話になっています。今、開けます」

間宮がそのふすまをそっと開く。少し小太りで、えびす顔をしている、人のよさそうな亭主だ。彼は庄左ヱ門を自室に入れる。

「ささ、おはいりください。この度は突然の注文にもお応えくださり、大変助かります」
「こちらこそ。さすがこの町で一番の宿、椿亭ですね。人々がお集まりになる。私もお役にたてて嬉しいです」

しかし・・・と庄左ヱ門はぎこちなく続ける。

「ここの町の税等を管轄しているオウギタケ城から椿亭で炭を売るなと言われてしまいました」

「な、なんですと?」

庄左ヱ門の言葉に彼は露骨に狼狽える。実際そんなことは言われていない全くの嘘である。これは庄左衛門の策略だった。

「いえ、私たちも理由はわかりません。なぜ椿亭で炭を売ってはいけないのか、その理由を知りたくて今日は参りました」

「そ、それは・・・私にもわかりません。・・・オウギタケ城のご指示でしたら、仕方ありません」

「・・・こんな噂があります。この椿亭はオウギタケ城と敵対関係であるササタケ城と繋がりがあり・・・物資を援助している、と。本当かわかりませんが」

「そ、それは全くあり得ないことです。我々はただの宿ですよ?そんな物騒な噂、誰が信じますか」

しかし間宮は庄左ヱ門と顔をあわせようとしない。そう簡単に認めないか・・・とはいえ庄左衛門はひとつの嘘をついた。きっとそれがまわりにまわって、何かの証拠になるきっかけになるはずだ。

「そうですよね。まったくおかしな話です。では誠にすみませんが、しばらくはご無沙汰になると思います。また販売の許可が降り次第、ご贔屓にしてください」

「もちろんです。では私は用事があるので、これで失礼します」

そうして足早に庄左ヱ門をおいてどこかへ行ってしまった。ふう、やれやれ、と庄左ヱ門は息をついた。

「あれで隠してるつもりなのか?まぁ、時間の問題かな。さくらさん、うまく出来るかな・・・」




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