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早朝、さくらは誰よりも早く椿亭を開ける準備をする。まだ辺りは薄暗い時間だ。一番に始める庭の掃除が終わるころ、女中たちがやってきて朝飯の準備をはじめる。そのころになると必ずやってくる者がいた。さくらは椿亭の表入口でやってくる彼を待った。
コツコツと蹄の音がする。大きな馬にのって荷を運びやってきた者は加藤村の馬借だ。
「おはようございます!お待たせしました」「おはようございます。いつも荷物をありがとうございます…ってあら?」
馬から降りたのはいつもやってくる清八ではなく、初めて会う自分と同じくらいの活発そうな青年。
「あぁ、すみません。清八は今日は荷物が多くていろんな所に行ってるんですよ。だから今日は私が来ました。加藤団蔵っていいます」
「そうなのですね。団蔵さんありがとうございます」「これ、食材ですよね。俺、運びますから」
そういって彼は馬から荷物を降ろした。そのまま椿亭へ入り、厨房まで運んでくれる。
全ての荷を運び終えたあと、いつものように受領書に記入し終え、それを彼に渡す。しかしそれを受け取らず団蔵はじっとこちらを見ていた、
「…えっと…なにか?」「いや、ここって椿亭なんですよね」「ええ。そうですが」
団蔵はうーんと何か何か言いたげにためらうような様子だったが、ま、いいやと言うとさくらに尋ねてきた。とてもストレートに。
「椿亭に忍者担当の女中相談員がいるって本当?」「いません」
「情報は秘密厳守、相談無料有でおまけに美人っていう話なんですけど」「いません!!そんなこと誰が言ってるんですか?」
いままで聞いたこともない言葉に思わず団蔵に聞いてしまう。今までは適当に流していたが女中相談員となるとさくらのような女中に迷惑がかかってしまうので無視できない。
「清八から聞いたんですよ。たしか椿亭の亭主がそうおっしゃっていたと。こんなチラシももらって」
そうみせてきたのは団蔵がぶっきらぼうに収めたのだろう。くしゃくしゃに折られた紙を開く。そこには間宮の文字で先ほどのようなことが書かれてあった。
「間宮さんーー!」
「わっ、落ち着いてください!」「これは何かの間違いですから!団蔵さんも一緒に来てください!」
彼に椿亭に女中相談員などいないと間宮本人に言ってもらわねばと団蔵を無理やりひっぱり奥の事務室へ行く。間宮はいつもの様子で椿亭の女中や男たちに指示をしていた。その中をさくらは割って入る。
「間宮さん!この告知紙!なんですか?!?」
「ふふふ。それは私が書きました!」
悪びれたそぶりもなく胸すらはってこたえる間宮。さくらは紙を間宮に押し付け返す。
「うちは普通の宿なんですから!こんな事を勝手にされては困ります。女中たちも迷惑します!」
「ううん…そうか。椿亭を盛り上げるいい案だと思ったのだが」「これの一体どこが…」
そんなやり取りを見ていた団蔵がまぁまぁ、とさくらをなだめる。納得のいかないさくらだったが団蔵の前でこれ以上取り乱してもみっともないと幾分か落ち着いた。
「でもそうか…俺結構当てにしてたんだけどなぁ」
「団蔵さんって忍者なんですか?」
「うん。一応ね。馬借業は仮の姿ってわけ。でもそうか…じゃあ誰に相談しようかな」
腕を組み悩まし気な団蔵をみて、段々と心配になってきたさくら。
「あの…お話だけ、聞かせてもらえますか?なにかできるかもしれないですし」
その言葉を聞いてにやりとひっそりと笑った間宮。団蔵はじゃあ話だけ、と事情を話し始めた。
「馬借の仕事で色んな場所に荷物を届けるんですけど、最近、この町の近くの「仁地寺」っていう寺からも荷物を届けてほしいって依頼されるようになったんです。」
「仁地寺?そんな寺、あったかな?」
「私も知りませんね」
間宮とさくらは辺りの寺をいくつか思い浮かべたが団蔵の言った寺は知らなかった。
「俺も知らなかったんですが、元は廃寺だった所を使って新しく寺ができたみたいなんです。そこで薬草を届けてたんですが、たまに毒薬の材料になりそうなものもあったりして、怪しいんです」
「お寺に薬草…それに毒薬の材料も運んでるって…本当にお寺なのかしら?」
「そう怪しんで何度か和尚さんと話したんですが、お寺のことや薬草の使い道については一切話さないんです。それがますます怪しくって。近くにあるこの椿亭なら情報もあるんじゃないかと思って、清八に代わってここにきたんだ」
団蔵の話を聞いて彼がここにきたのはこのためだったのかと理解したさくら。仁地寺の薬草がどのように使われるのか。忍者も気にする
ぐらいだ。もしなにかの戦で利用されるとしたら、この町も危ない。
「椿亭には関係ないことだけど、もしこの辺りで危険なことをしようとするお寺なら、放っておけませんね」
「ふふふ、そこで君の出番だよさくらさん!」
間宮がさくらの肩をぽんぽんと叩く。言っている意味がわからずさくらは聞き返した。
「どういう出番なんですか?」
「君が団蔵さんとこの一件を調べて、椿亭でも情報を提供するんです。もちろん安全な範囲で。これはいい商売になります!!」
反省してなかったらしい間宮をさくらは睨んだ。うちはあくまでも普通の宿でいたいのだが。しかし、団蔵が間宮の話を聞いてひらめいた。
「そうだ。君がいたら門前払いの和尚も警戒を解くかもしれない!君はみたところ、ふつーの人だし。どこかのほほんとしてるし」
「確かに私は、もちろん普通の人ですけど・・・うーん」
さくらは考えた。ここで行くと言ってしまえば間宮が喜ぶ。しかし団蔵の仁地寺にも気になることはあるし、当てにしていたという気持ちを無下にはできない。さくらは決心して頷いた。
「わかりました・・・。私は−」
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