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さくらは間宮のいる事務室へと兵太夫を案内する。間宮はさくらを見つけると丁度よかったと声をかけた。
「さくらさん、倉庫になっている空き部屋の掃除、そろそろしたいのだけど…おやそちらの方は?」
「お客様です。間宮さんにお話があるそうで」「どうも初めまして。忍者の笹山兵太夫です。亭主の間宮さんにいち忍者として提案があるのですが…」
兵太夫はぺこりと頭をさげる。関わらないほうがいいと察したさくらはじゃあ私は掃除をしますので…とその場を離れようとするが、兵太夫にぐいと腕をつかまれた。
「君も聞くんだよ!」「はい…わかりました…」
どうやらすでに巻き込まれていたらしい。さくらは観念したとばかりに二人の話を聞くことする。
「椿亭は忍者宿として現在人気を集めていますが、私は正直、この宿はその名にふさわしくないと思っているのです。宿そのものは他の宿と変わりありません」
「うちはもともとは普通の宿で、ひょんなことから忍者が来るようになっただけですしねぇ…」
「そこで!より椿亭を忍者宿らしいものにするために、一つ提案があるんです!これが成功すれば、忍者…いや一般の客だってその珍しさから殺到するでしょう!」
お客が殺到、その言葉に間宮は目を光らせた。間宮は儲け話に弱く、そのためなら見境を無くすところがあるのだ。
興味深く話を聞き始めた間宮にさくらはいよいよもって嫌な予感がするなと感じていた。
「それはどのような提案なのでしょう?」
その反応に兵太夫はにやりと笑う。
「それは、この椿亭をからくり宿にするんです!」
「からくり宿?!」
二人はからくりと聞くと芸に使われる人形や器具、屋敷などで侵入者を翻弄したり、屋敷から抜け出すために使用されるからくりを思い浮かべる。
その技術を利用した忍者屋敷は実際にも各地であるらしい。それを聞いた間宮の目が爛々と輝いている。
「それは面白そうですね…しかし我々は一般人。からくりの知識などはないのですが」
「ふふふ…何を隠そう、この私、からくりを作る技術には少し自信があるんです!どうです?私を使ってからくり宿にしてみませんか?」
「よし雇う!」「間宮さん!」
さくらは慌てて間宮を止めようとする。ここは椿悟郎が守ってきた大事な宿なのだ。たしかに宿も時代と共に変化はあるだろうが普通の宿がからくり宿になるなどという奇抜な変化は聞いたことがない。ほんとうに椿亭の方向性はそれでいいのかと間宮に問いたい。
「忍者の方はともかく、一般の方にけがなどされたりしたら…!」「だったら部屋の一室で「からくりの間」っていうのをつくればいいと思うよ。からくりがあるってわかれば問題ないんじゃない?」
「素晴らしい!ぜひお願いします兵太夫先生!丁度物置になっている空き部屋がありまして、そこをからくりの間にしましょう」
間宮はさくらにその案内と手伝い役を命じる。
さくらの説得もむなしく、宿にからくりの間を作ることになってしまった。意気揚々と物置までの廊下を歩く兵太夫とは違ってとぼとぼと歩くさくら。
「ここがその物置?」
「はい。皆、いらなくなったものや余ったものを適当にここに置くんです。だから捨てるものが溜まっちゃって…」
「ふうん。どれどれ」
兵太夫がふすまを開ける。ほこりっぽい部屋の中、日差しのはいる戸も物でふさいでいるため、光も開けたふすまから以外に入ってこない。
暗い中、さくらと兵太夫はその空き部屋に入る。あたりはガラクタだらけだった。
「ごめんなさい。これから捨てて、片づけますから…」
「いや、まって。これ、からくりに使えるかも」
兵太夫はそのガラクタをみて、楽しそうに辺りを物色し始めた。さくらは彼の言われた通りに掘り出したガラクタをいったん外へと運んでゆく。
言われたものを外にだしていくと室内に残ったいらないものはわずかになった。物だらけだった部屋もがらんと広く感じる。
「あれを、こーして…くくく、驚かせるぞ…」
表に出したガラクタを見ながらおもいっきり悪い笑みを浮かべる兵太夫。やっぱりこの人は危ない人だとさくらは悟った。ガラクタを物色し終わった兵太夫はさくらへ振りかえる。
「一人じゃ人手が足りないし、君も手伝ってよ。やってみると楽しいぜ」
「ええ?私も?」
嫌なんですけど、と言いかけて彼の強情な性格には敵わないとぐっとこらえるさくら。
「君しかいないだろ。えーっと名前なんて言うの?」
「さくらですけど…」
「よっし、さくらさん二人でこの部屋を最恐、いや最高のからくりの間にしよう!」「…おー」
かくして兵太夫とからくりの間をつくることになった。どんなからくりがしかけられるのだろう、恐ろしいような、気になるような。
さくらは椿亭の行く方向性を心配しつつ、兵太夫の手伝いをするのだった。
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