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室内を定規で図り終えた兵太夫は風呂敷から数枚の紙を取り出す。そこにさらさらと描かれていくのはからくりの設計図。
迷いなく描いていく兵太夫にさくらは感嘆した。
「すごいですね…。兵太夫さんの中ではもう設計ができてるんですね」「ふふん。さくらさんにはできない芸当だろ。こういうの下手そうだし」
普通にほめたのにさらっと皮肉で返される。この笹山兵太夫という人間がだんだんわかってきたさくら。楽しそうに設計図を描く彼の横顔をみてさくらはふと気になったことを尋ねてみた。
「兵太夫さんって、忍術学園の卒業生だったりします?」
その一言を聞いて兵太夫は筆を止めた。ゆっくりとこちらを鋭い目つきでみつめる。
「…忍術学園を知ってるの?もしかして君はくのいち?」
兵太夫の警戒した問いにさくらは首をぶんぶんと横に振った。どうやら自分が学園の事を知っていることを怪しまれてしまったらしい。
さくらには椿亭で出会った人と忍術学園に行ったことがあることと、知り合いがいることを話すと兵太夫はなあんだ、とほっとしていた。
「だよね。君みたいな隙だらけの人が忍者なわけがないよな…。そうだよ、僕は忍術学園の卒業生」
そう言って彼は再び筆を動かした。でもそれがどうかしたの?と兵太夫は書きながらそう聞いてきた。さくらは正直に思ったことを言ってしまう。
「変な忍者に巻き込まれることがおおくて。その人たちみんな忍術学園の人なの。貴方も含めて」
「僕も含めてかよ。まあ学園は変な人が多かったしね」
ふと彼は顔を上げた。彼の目に映ったのはふすまを開けたままのぞかせる薄水色の空。ふわりと秋風が入り込んできた。
「そういや僕の友人もここにいるんだよね。元気かな」「なんだかその人とても良く知っている気がします」
「…ま、そのうち会いに行くよ。今はからくりからくりっと…」
しばらくして数枚の設計図を書き終える兵太夫。さくらは彼が書いている間、部屋の掃除をし、そのあとは厨房で茶を沸かしていた。
お疲れ様ですと淹れたてのお茶を兵太夫まで持ってくる。
「さんきゅっと。あ、そういえば床の構造を見てなかったな。棚を出して一回確認しないと」
「じゃあ…」「あぁ、いいよ。重いし。僕が出すからさくらさんは離れてて…」
そう兵太夫は立ち上がり、元はガラクタを並べてあった空の木棚を持ち上げる。そのまま外に出そうとして一歩踏み出して、彼は違和感を感じた。
一度棚を下し、もう一度歩く。やっぱり、と彼はその場にかがんだ。
「どうしましたか?」
床を調べ始めた兵太夫を不思議に思ったさくらは傍による。彼はしきりに床をとんとんと叩いた。
一方では鈍い音が、もう一方ではがたがたとゆがんだ音がする。
「ここ、なにか仕掛けがあるみたい!」
「ええ?こんなところに?」
さくらも屈んで床を見つめる。一見何もないように見える。しかし兵太夫が木の板の本当に小さな溝に指を入れ引っ張るとがこりと長方形の一畳分の床がはずれた。大人一人が入れるかぐらいの幅の穴。そこには小さな段差があり、無造作に板が段差に並べてあった。
「椿亭に隠し階段なんてあったんだ…」
誰が作ったものなのだろう。ここは何年も前から物置として使っていたのでこれがいつ何のために作られたのかさっぱり見当もつかない。
「間宮さんもあの言いようからして知ってなさそうだし。入っていいのかしら」
という傍から兵太夫が穴へ入っていく。
「ちょっと兵太夫さん!」「いいからいいから。さくらさんはここで待ってて。僕が安全を確認するから」
そう言ってさくらを残し奥へといってしまう。しばらく待っているとおーいと下から声が響いた。
「入ってきなよ!おもしろそうなところがあるぜ!」
さくらはおそるおそるその穴へと入っていく。段々と暗くなって真っ暗になった時、かちんと音がすると彼が携帯していたらしい小さな蝋燭に火がともった。
その光でぼんやりと兵太夫の姿がみえる。彼はさくらに手を伸ばしていた。
「ん」
「…?」
「…手、貸だして。暗いからこけて怪我するとと困るし」
「は、はい」
さくらは兵太夫の手を繋ぐ。ゆっくり歩きながら辺りを見渡す。掘った横穴のようだが、丸太と縄で崩れないように補強されている。
いったい誰が作ったのか。ここを知っているものはいるのか?さくらは疑問が浮かぶばかりであった。
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