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「落ち着いた?」
「はい。ごめんなさい。みっともない姿を見せてしまって」
しばらく泣き続けていたさくらが落ち着いて、地上に上がった二人は地下への入り口を閉じる。さくらは椿悟郎が残したさくらへの服が入った風呂敷を持って上がっていた。
兵太夫が肩を竦める。
「ほんとだよ。ま、べつに良いんだけど・・・でもそうか・・・ここに地下室があるならまたからくりの仕掛は変わってくるなぁ」
「え!あれをみても作る方向なんですか・・・」
「当たり前じゃん。先代亭主の隠し部屋のあるからくりの間なんて、ワクワクするだろ?まぁ、悪いようにはしないからさ、とにかく手伝ってよ」
そういって兵太夫さんはからくりの仕掛け作りを一人で始めてしまった。さくらはここのことは間宮だけに伝えておこうと思った。悟郎が本当に自分を我が子のように思っていたことを知り、さくらは寂しさを感じながらも幸せな気持ちだった。
数日の間、兵太夫はからくりの間にこもりきりで、さくらは彼にからくりの材料を渡したり、食事を運ぶぐらいのことしかしていない。それぐらい彼はからくり作りに没頭し、話す暇もないほどだった。しかしある日の朝、さくらがいつものように朝食を兵太夫に運んでいるとき、彼は珍しく部屋の外でのんびりと背伸びをしていた。
「おはようございます。兵太夫さん。朝御飯ですよ」
「あぁ、おはよー。悪いね。部屋の前に置いといて」
「部屋の前?中じゃなくて?」
さくらの何気ない問いかけに彼はニヤリと笑う。
「別に、入ってもいいけど、知らないよ?どうなっても〜」
どうやらからくりの間は完成したらしい。さくらは部屋には入らず、部屋の前に食事を置いた。
「からくり、できたのですね。どんな仕掛けなんですか?」
「色々。後で設計図渡すから試してみて。危ないものはないから。・・・多分」
あと、と彼はさくらに木箱を渡す。これは、地下で見た自分が幼い頃遊んだおもちゃ箱だ。しかし箱の剥がれかけた塗装は丁寧に塗り直され、あいていた穴もきれいに塞がっていた。さくらは驚いた表情で兵太夫を見た。
「これ、兵太夫さんが直してくださったんですか?」
さくらが聞くと彼は運び込まれた食事を行儀悪くあぐらをかきながら食べる。あぁ、と一言言って目をそらす。
「その箱、汚くてぼろぼろだったから。ついでに」
「兵太夫さん・・・!ありがとうございます」
兵太夫の優しさにさくらは顔が綻ぶ。そんな彼女の笑顔にみとれてしまった兵太夫は照れ臭そうにしている。
「いーよ。僕がやりたくてやったんだし。この椿亭を作った人の部屋を改造したんだし、それぐらいは・・・って、なんだよその目は」
「兵太夫さん、やさしーんだなぁって見直しました」
「見直すは余計だ!」
そんなことを話していると廊下をとんとんと歩く音がする。二人が振り向くとどこか楽しそうな現椿亭の亭主、間宮が向こうからやって来た。
「兵太夫さん!からくりの間が出来たときいてやって来ました!」
「あぁ、どーぞ」
兵太夫はからくりの間へ行く間宮を止めなかった。おかげでその後は悲惨だった。落とし穴にはまるわ上がってくれば上から桶がおちるわ壁に触れたら壁が回転し外に放り出されるわ・・・とにかく見ていて無惨だった。ぼろぼろになって出てきた間宮はからくりの間からよろよろと出てきて黙って腕を上げ、親指を立てた。
「どうです?」
「さすが・・・すばらしいでふ・・・」
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