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先日さくらは椿亭に泊まりに来た一人の山伏と出会った。彼はいくつもの霊山を踏破したのだろうか。その身にまとう気迫は、男性にしては小さな身体でも厳かだった。

彼はさくらと目が合うとこんにちは、と屈託のない明るい笑顔で必ず挨拶をする。厳かな気迫とその笑顔の二面性が、不思議と魅力的に思えた。
さくらは、そんな彼が借りている椿亭のからくりの間を掃除している。この町にはいくつかの霊山があることで僧がよく泊まりに来る。きっと彼もその一人だろう。

床をほうきではいていると机の上に置かれてあった両手で乗るぐらいの大きさの仏像がことり、と落ちてしまう。さくらはあわててそれを手に取り、破損がないか確認した。持ち上げるところころと中から音がする。

仏像の内にさらに小さな仏像を入れるものを「腹ごもり」と言うらしいがこれはそれなのだろうか。貴重なものだろうと机に戻そうとすると、仏像の中からぼとっと紙が落ちる。

「あら、手紙?」

小さな紙が半分におられている。それが落ちた拍子にぱらりと開き、その内容をさくらは読んでしまう。

「椿亭の女中をさらえ」

一瞬思考が止まるさくら。思わずそれを手に取り口にした。

「え・・・椿亭の・・・女中??椿亭は、ここだし、さらうって」

お客の私物ということも忘れその手紙をじっと見つめる。さくらはあまりに動揺していたため、音もなくやって来たその山伏の気配に全く気づかなかった。

「見たんだ・・・」

ゆっくりと、低い声が背後からさくらの背後から聞こえた。驚いたさくらは冷や汗をかき振り返ると、白い法衣に身を包み頭巾をかぶり、錫杖を持つ彼が見下げていた。

「あ、あぁ、あの、これは・・・」

さくらは言い訳すらも忘れて手紙を見せる。いつも笑顔で返してくれた男の表情は無表情だった。

「見ちゃったんならしょうがない・・・君を・・・さらう!!」

男はさくらの片手をつかみ羽交い締めをしようとする。さくらはとっさに近くにあった罠ひもを引っ張った。ここはからくりの間だ。

「う、うわー!」

ぱかっと床が開いて容赦なく男とさくらは穴に落ちた。穴のそこには藁が強いてあり、衝撃は和らいでいた。

「ここがからくりの間ってことを忘れてたよ・・・トホホ」
「はぁ、兵太夫さんに助けられた・・・」

兵太夫、という言葉に彼は反応した。男は起き上がり、もう一度言って!と迫った。

「え?兵太夫さんに・・・助けられた?」
「兵太夫をしってるの!?」

男は身を乗り出して聞いてくる。さくらは気迫に押されながらも頷いた。同時にいつもの事件に巻き込まれる予感がした。



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